第60話 第三の人物
「ただいま、リムニ、シャペール!」
「お帰りなさい、フルスト様!」
玄関に立っていたのはリムニ――でもなく、シャペール――でもなく。
「り、リリィ……!?」
「よく、ご無事で……!」
青い瞳いっぱいに涙を浮かべ、肩を震わせながらリリィが俺の胸に飛び込んでくる。
えっ、えっ、ちょっと待ってこれどういうこと!?
「お、お前、どうしてこんなところに!?」
「ごめんなさい、フルスト様。ごめんなさい、私、あなたに甘えてしまいました。あなたにつらい思いをたくさんさせてしまいました。ごめんなさい……」
くっ……状況は全く理解できないが、とにかくリリィの銀髪からはめちゃくちゃ良い匂いがして、小刻みに震える華奢な肩は庇護欲を搔き立てた。……ヤバい、理性が! 俺の粋でクールで冷静沈着な理性が崩壊する!
俺はとりあえず深呼吸してから、言った。
「お――落ち着け、リリィ。何があった?」
「謝りたくて。フルスト様に甘えて、私、なんでもお任せしてしまいました。本当は、資金援助をしてくださったお礼にステイナー領であなたを匿っていたはずなのに、私はその立場を利用してあなたを便利に使うような真似を……!」
「い、いや、気にするなよ。結果的に反ステイナー派は倒せたんだから。そうだろ? そりゃあ、色々あったけどさ」
「ですが――あなたを危険な目に遭わせたのは私です」
「でも、ヒリュー領から脱出した俺たちを匿ってくれたのはリリィだし、そもそも反ステイナー派との戦いに協力するって決めたのも俺だ。リリィが謝るようなことじゃない」
「フルスト様……!」
リリィが潤んだ瞳で俺を見上げる。
「だから、気にするな。それにリリィはステイナー領の領主だろ。警護もつけないでこんなところに来ちゃ危ないじゃないか」
「でも……少しでも早くフルスト様に逢いたくて」
「……!」
反射的に、目の前のリリィを抱きしめたくなった。良い匂いのする綺麗な銀髪に顔を埋めたくなった。少し痩せたリリィの頬を撫でまわしたくなった。――が、リビングの方からリムニがこちらを覗いているのが見えたのでギリギリで踏みとどまった。
「……えっとぉ、感動の再会はそのくらいにしてぇ、お茶にしませんか? コーヒーが入ってますよぉ?」
「あ、ああ、うん。そうしよう! リリィも一緒にお茶にしよう。リムニ、お菓子の準備は?」
「当然してありますよぉ! リリィ様、こちらへどうぞ!」
「は、はい。ありがとうございます、リムニさ―――あっ! ご、ごめんなさいフルスト様!」
俺に抱き着いていることに気づいたリリィが、慌てた様子で俺から離れる。
もう少しこのままでも良かったが、さすがにリムニが見ている前では気が引ける。とはいえ、リリィが俺に飛びついてくるような状況なんて二度と訪れないだろう。そう思うと惜しい気もしたが、仕方ない。このイベントは俺の脳内メモリーに深く刻み込み、一生の思い出にしよう。




