第6話 燃える執事
「さて、ミリアルド様に危害を加える不届き物はこのキャンベルめがお相手いたしましょうぞ。消し炭になりたい者からかかって来なさい」
「……たかが執事風情に何が出来る!」
短剣を構えなおした黒装束の男が、地面を蹴り一気に距離を詰めて来る。
キャンベルは冷静に男の手から短剣を叩き落すと、流れるような動作で男の腹部に蹴りを入れた。
黒装束の男は自ら後ろに飛ぶとキャンベルから距離を取り、警戒するような様子でこちらを見つめた。
「今ので終わりですかな?」
「……退くぞ。状況が変わった。命拾いしたな、悪徳貴族のミリアルドよ」
そう言い残し、男は黒装束の仲間たちとともに夜の闇の中へ消えて行った。
「ふ……ふう……」
気が付けば俺は全身汗だくになっていた。
貧血を起こしているのか手足が痺れ、喉もからからに乾いている。
足に力が入らず、傍にあった樹木にもたれかかるようにして座り込んだ。
「無事でございましたか、ミリアルド様!」
キャンベルが俺の前に屈みこむ。
「ああ、大丈夫だ。怪我はない」
「申し訳ございませんミリアルド様。まさか賊の侵入を許すとは……!」
「何、大したことじゃないよ。必ず助けが来ると思っていたから」
ミリアルドが黒ずくめの集団に殺されるなんてイベントは、『ブレス・オブ・ファンタジー』本編には存在しなかった。
逆説的に、本編が始まり主人公に殺されるまではミリアルドが死ぬことはないということだ。
だから誰かが助けに来てくれる――願望に近い予想だったけれど、今回は的中してくれたらしい。
「み、ミリアルド様ぁーっ!」
情けない声を上げながら、暗闇からメイドが現れる。ミーアだ。
「ミーアも助けに来てくれたのか」
「いつものようにお食事を届けに来たら、小屋にミリアルド様の姿がなくってぇ……それで、キャンベルさんと手分けして探していたんですぅ! ご無事でよかったぁ!」
ミーアは子どものように泣きながらそう言った。しゃくりあげるたびに胸が上下に揺れている。ヒリュー家の屋敷に使えるメイドのメイド服はそれなりに胸元が強調されるデザインになっているので、その影響もあってか大変な揺れだ。このメイド服を考えたデザイナーには賞賛を送りたい。
「……迷惑かけてすまなかったな、二人とも」
俺は樹木を支えに立ち上がった。貧血になったときのような脱力感は多少治まっていた。
「これからどうされるのですか、ミリアルド様」
キャンベルが俺に訊く。
今日のようなことが起こるのなら、大人数がいる屋敷で暮らす方が安全かもしれない。
「また一人で小屋に戻って命を狙われるのも嫌だしな。こうなったら屋敷に戻るよ」
「おお、お屋敷にお戻りですか! しかし精神修行の方は……?」
確かにそんな言い訳で小屋に引きこもり始めたんだった。
さすがに屋敷を出てからほんの3日で精神修行を完遂したとは言えないだろう。
「……短い時間だったけど、自分を見つめなおすことはできたかな」
「それは何よりでございます」
キャンベルはうやうやしく頭を垂れた。
命の危険を感じながら一人で生活するのは避けたい。だから屋敷に戻る。
とはいえ、一か月後にミリアルドが――つまり俺が殺される運命が変わったわけじゃない。このままでは間違いなく死んでしまう。
俺が死なずに済む良い方法がないのだろうか。
と、そのとき、不意にミーアが俺の目の前に屈みこんだ。
「ミリアルド様! 頬に血が!」
「え? 血?」
触れてみると確かに出血していた。窓ガラスの破片が当たったのかもしれない。
「こ、ここここんな大怪我をっっ!」
「大丈夫だよ、かすり傷だって。血も少ししか――」
「い、い、いけません! もし悪い菌が入って化膿したら大変ですっ! ミーアに任せてくださいっ!」
そう言うとミーアは口の中で呪文のような言葉を唱え、片手を俺の頬にかざした。
緑色の光が広がるとともに、僅かにあった頬の痛みが引いていくのを感じた。
「回復魔法か……!」
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