第56話 真相に辿り着くモノ
俺が木刀を構えると、ラウルは肩を竦めた。
「まあ、落ち着いてくださいよ。今更僕をどうしようって言うんですか。僕とあなたが戦う理由なんて無いはずだ」
「お前はステイナー派を裏切った」
「誤解ですよ。僕はステイナー派でも反ステイナー派でもないんですから。一時的にあなたたちの味方をして、その次に反ステイナー派の味方をしたというだけです」
「ステイナー派と反ステイナー派を争わせたのもお前だろう?」
「やだなあ、買い被りすぎです。結果的にそうなっただけで僕が仕組んだわけじゃありません。いえ、もちろん両方が潰し合ってくれればいいと思って細工を弄したことは認めます。でもね、元々このステイナー領には貧富の差があって、反ステイナー派が生まれた原因もそれですよ。あなたも知っているでしょう? だから――あなたの怒りの理由はもっと別にあるはずだ」
「……俺たちを意のままに操ろうとした。ヒリュー領も巻き込んで。それが気に入らない」
「ごもっともです。人間だれしも、他人の意図に振り回されるのは不快なものです。そこに関しては謝ります。嫌な思いをさせてしまってごめんなさい、ミリアルドさん」
ラウルは素直に――謀略や策略など何も感じさせない仕草で――頭を下げた。
思わず許しそうになって、我に返った。
「ふざけるな! 謝って済むと思うのか? ステイナー領を混乱させて、どれだけ大勢の人間を巻き込んでいると思っているんだ?」
「……あなたがそんなに正義感の強い人だとは思いませんでしたよ、悪徳貴族のミリアルド・ヒリューさん。それともあなたがそんなヒロイックな気持ちになってしまうのも、この『コア』のせいですか?」
ラウルが後ろを振り返り、上を見上げる。
「……!」
そこにはまるで定規で測って作ったようにきれいな長方形のオブジェクトが鎮座していた。ラウルの背よりもはるかに高く、夜の闇よりも深い黒色をしていた。
「先ほどは謝罪しましたが、同時に感謝もしています。あなたたちが僕の用意した台本通りに動いてくれたおかげで、こうして『コア』に接触することができた」
「それが『コア』……!」
「この世界には決められた『運命』がある。僕はそう思っています」
「……何?」
「分かりませんか? 自分の人生が自分ではない何者かによって定められているような感覚が。生きていて、自分以外の誰に操られているような気持ちになったことはありませんか?」
「!」
「僕はいつもそんな気分です。僕はラウル・アーシャとして自分の意志で生きているはずなのに、もっと大きな力に翻弄されているような……僕の人生の終着点が既に決められているような気がするんです」
ラウルは切実な声音で言う。その様子はまさに悩める青少年そのものだった。
「それが―――何だって言うんだ」
「ミリアルドさん、僕は自分の『運命』を変えたいんですよ。あなたが死の運命から逃れたように」
「な……」
「この世界は大きな物語の舞台で、僕は登場人物の一人にすぎない。若くして成り上がった裏切者の商人としての役割を与えられた……ね。あなたもそうだ。悪徳貴族としての役割を与えられ、王家の命を受けた騎士に殺される『運命』だったはずだ」
当たっている。
ラウルは自分の推測だけで、この世界の真相に辿り着いている。




