第55話 坑道の深層へ
「み、ミリアルド様ぁ……あ、違った、フルスト様ぁ、お怪我は!?」
リムニが俺に駆け寄ってくる。
「大丈夫だ。大したダメージは残ってない。それより――難は逃れたということかな」
はあ、と息を吐いた。全身が疲れ切ったような感覚だった。もちろん疲れそのものも回復魔法で自動的に治癒されるのだから、そんな感覚は俺の錯覚に過ぎないのだろうけど。
「このシャペール、奴らに屋敷での借りを返すつもりでしたが――またしても不覚を取りました。面目次第もございません」
「何度も言わせるなよ、シャペール。ちゃんと時間を稼いでくれたじゃないか。感謝してる」
本来なら責められるべきは俺の方だ。『ブレス・オブ・ファンタジー』本編で、キャンベルはブレスたちに敗北する。つまり、シャペールがブレスたちと戦えば、負けてしまうのは確実だったのだ。それなのに俺はシャペールを金鉱脈に向かわせた。
ブレスたちがここへやってくるのは予想外だったとはいえ、シャペールが傷を負った責任は俺にある。
「……とにかく無事でよかった。それじゃ、せっかくだからこの奥にあるモノの正体を見ておくか」
「一体何があるんですかぁ?」
リムニが首を傾げる。
「いや、俺も分からないんだ。ただ『コア』と呼ばれているらしいってことくらいしか……」
「ふむ。ということは、この重圧を発しているモノの正体もその『コア』とやらかもしれませんな」
シャペールが言う。
「何か感じるのか?」
「今は収まりましたが、先ほどの輩どもと戦っておりましたときに、プレッシャーや重圧――強制力のようなものを感じたのです。私が奴らに負けるよう仕向けるような力ですな。いえ、もちろん敗北は私の力不足ではありますが」
「……興味深いな。強制力か」
『負けイベント』という言葉が脳裏を過った。
あのヒリュー家の屋敷での戦闘や先ほどのシャペールの戦闘。あれは最初からブレスたちが勝ち、俺たちが負けるということが決まっている戦いだった。
だけど――冷静に考えたら、というか、まあ、冷静に考えなくても、そんなことは本来であれば有り得ない。物事に絶対はないはずなんだ。
だとしたら、ブレスが勝利するように仕向ける何か――『運命』を捻じ曲げるような何かが存在すると考える方が自然だ。
『運命』。そして――『コア』。
ラウルが言っていたことの意味がようやく分かって来た気がする。
「とにかく見に行ってみよう」
俺たちは坑道の更に奥へと進んでいった。今まで等間隔に置かれていた光源も減っていき、明かりはシャペールの手元にあるランプだけが頼りだった。
「ふえぇ……なんか怖いですぅ……」
リムニが悲鳴を上げながら俺の背後に隠れる。
「戻っても良いんだぞ。一人で」
「ええ!? そっちの方が怖いですよぉ! それなら終身雇用メイドとしてどこまでもついていきますっ!」
落ち着かない様子で周囲を伺いながら、リムニが答えた。
「……シャペール、何か感じるか?」
「いえ、先ほどのような重圧は感じませんな」
「地図ではどうなってる? この通路、あとどれくらい続くんだ?」
「何とも言えませんな。既に我々は。地図上には存在しない場所におりますから」
「まあ、それはそうか。行けるところまで行くしかないな」
俺たちの声や足音が坑道の奥へ響く。
それから少し歩くと、前方に明かりが見えた。
「何でしょうかぁ、あれ」
「分からない。だけどもしかすると――」
「何かがあるのは間違いなさそうですな」
明かりに向かって進むと、不意に開けた空間へたどり着いた。
魔力によって輝く鉱石に囲まれたその空間は光に満ちていて眩しいほどだった。そしてその中央には――
「思っていたより時間がかかったようですね、ミリアルドさん」
「……ラウル!」
金髪の青年、ラウルが柔和な微笑みを浮かべながら立っていた。




