第53話 勝機
……勝機はある。
なす術もなく敗北したこの間とは違う。
チュートリアルを生き延びたミリアルドと主人公の戦闘なんて『ブレス・オブ・ファンタジー』本編には存在しなかったイベントだ。当たり前だけど。
でも、だからこそ――この戦いは『負けイベント』ではない。
ブレスが死ねば『ブレス・オブ・ファンタジー』は終わる。ゆえに、ブレスの敗北はあり得ない。しかし、だからと言って俺が負けるという『運命』が決まっているわけでもない。
「五分五分だよ、ブレス。俺が死ぬとは限らない」
「俺の名前を知っていたのか」
「有名人だからな、あんた」
この世界でも、元々俺が生きていた世界でも。
「なぜ俺たちの邪魔をする? 俺たちは王国中枢の命令でこの場所の調査に来ただけだ。足止めをされるような理由はないはずだろ」
「俺の勘だけど、お前は利用されているだけだ。この場所にある『何か』を知りたい人間たちに」
「……何があるんだ、ここには?」
「それは俺も知らない。だけど、その正体を外部に漏らすわけにはいかない」
「なぜだ?」
なぜ?
一瞬、言葉に詰まった。
なぜだろう。
この奥に何があるのか、俺は知らない。
しかし俺の脳裏にはラウルの顔が浮かんでいた。
『コア』と呼ばれる何か。あの男がそれを狙っているのなら――それを手にするために権謀術数を張り巡らせているのなら、策略を持ってすべてを意のままに動かそうとしているのなら――思い通りにはさせない。
なぜなら。
俺は、誰かに何かを強制されるのが死ぬほど嫌だからだ。実際、やりたくもない仕事を強制され続けて退職して部屋に引きこもった挙句一酸化炭素中毒で死んじゃった(みたいだ)し。
俺を思い通りに出来ると思うなよ、ラウル。
そして――これはリリィのためでもある。
金鉱脈はステイナー領の財産だ。たとえ王都から派遣された人間であっても好きにさせるわけにはいかない。何でも安請負してはいけないのだ。一度でもそういうことを許せばステイナー家の影響力は下がっていく一方だ。
次から次に丸投げされる仕事をハイハイと安請負し続けた結果、便利な社畜として使い捨てられた俺が言うのだから間違いない。
話が逸れた。思い出したくないことまで思い出した。今はブレスとの戦いに集中しよう。
「俺たちを操っている奴がいる。そいつの思い通りにさせたくないからだ」
「意味不明なことを言ってんじゃねえ。これ以上話しても無駄みたいだな」
ブレスが動いた。
一瞬で俺との間合いを詰めて来る。
「リベンジマッチといこうか!」
「やっぱりお前はッ!」
ブレスが剣を振り下ろす。俺は木刀でそれを受け止め――衝撃で全身が震えるのを感じた。
回復魔法の出力を全開にする。砕けてしまいそうな足で踏みとどまる。




