第49話 何者
イリシャが気絶して静かになると、魔法が解除されたのか日常の音が戻って来た。
ちょうどそこへ共にカタヨル中佐が戻って来た。
「無事か、フルスト殿」
「ああ、なんとかね。中佐の方は?」
「反ステイナー派は全員確保した。レザンの情報を持っている者もいるようだ。反ステイナー派の壊滅に向けて大きく前進したのは間違いない」
「そうか……それは良かった。リムニやメチャムも無事だよな?」
「当然だ。被害が出たのは――この部屋くらいだな」
中佐はボロボロになった室内を見渡しながら言った。
「拉致から守ったんだからこのくらい安いものだろう。中佐、こいつのことも任せるよ」
「先ほどの暗殺者だな。分かった。反ステイナー派と共に捕えておくとしよう」
「俺は一足先にステイナー領へ戻る。リムニも一緒に来るよう伝えてくれ」
「……例の、金鉱脈の件か?」
「ああ。シャペールが先に向かっているはずだ」
「分かった。すまない。こちらの処理で手伝えそうにないが……無事を祈る」
「杞憂に終わればそれでいいんだけどな。じゃあ、後のことは頼んだよ、中佐」
「任せてくれ、フルスト殿」
中佐が返事をしたとき、突然大勢の足音が近づいてきた。ヒリュー領の兵士の一団だ。その先頭には、似合わない鎧を着たメチャムが立っていた。
「我が君! ご無事ですか!」
「メチャム……! 反ステイナー派の相手は俺たちに任せて隠れておけと言ったじゃないか」
「しかし、王家からの襲撃があったあの時のように我が君を見殺しにするわけにはいきません!」
「気持ちはありがたいが……もうすべて終わったよ。今度こそメチャム、ヒリュー領のことは君と行政庁に任せる。体には気を付けてくれ」
「我が君……またしても私は間に合わなかったのですね……」
項垂れるメチャム。その背中には哀愁が漂っていて、俺は思わず彼の傍へ歩み寄っていた。
「そんなことはない。メチャム、君の出番はこれからなんだ。これから先のヒリュー領を任せられるのはメチャムだけなんだ。本当に俺のためを思うなら、ヒリュー領を更に良い領地に代えてくれ。それができるのもメチャムだけだ」
「わ――我が君!」
小太りの中年が目を輝かせて俺を見上げる。
……俺はリリィのルートを攻略していたはずだったが、どこかで分岐を間違えたか? これじゃメチャムルートじゃないか。
「俺はステイナー領へ戻る。部屋をボロボロにして悪かったな。もし余裕があるならカタヨル中佐を手伝ってやってくれ」
「はい、お任せください我が君!」
「頼んだよ、メチャム」
「ヒリュー領は――私が命に代えても素晴らしい領地にしてみせます! 我が君のためにも!」
「ああ、心強い言葉だ。ありがとう」
俺はメチャムの肩を軽く叩き、部屋を後にしようとした――が、中佐に呼び止められた。
「フルスト殿」
「なんだ、中佐」
「貴公は―――本当は何者なのだ?」
中佐の顔を見る。そこに浮かんでいたのは、純粋な疑問の色だった。きっと、ヒリュー領の実質的な主であるメチャムが俺のことを我が君我が君と連呼するからだろう。余計な疑いを生んでしまった。
「俺はただの元ニートで、引きこもり生活に戻りたいだけの男だよ」
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