第48話 首トン
俺が振り下ろした木刀は、イリシャの空気の剣で受け止められた。
イリシャが眉を顰める。
「ただの木刀じゃないわね、それ」
「さすが、違いの分かる暗殺者」
「えへへへ、それほどでもないわよ―――って、おだててこの場を乗り切ろうったってそうはいかないわ。やっぱりあなたミリアルド・ヒリューよね?」
「いや別人です」
「あれー?」
首を傾げるイリシャ。
俺が振るう木刀とイリシャの剣がぶつかり合う。
その瞬間、背後から嫌な気配がして俺は横へ跳んだ。同時に、さっきまで俺が立っていた床がズタズタに引き裂かれた。
「……! 剣だけじゃないのか!」
「当たり前じゃない。油断してるとその床みたいになっちゃうわよ」
風切り音がした気がした。あの見えない刃の攻撃だ。俺は木刀でそれを振り払った。衝撃と共に空気の塊が爆ぜる。
「厄介だな」
「こっちの台詞よ。私の風魔法でも壊れないその木刀は一体何? 魔法で強化してるの?」
「ある意味正解だけど、少し違う。これは壊れていないんじゃない。壊れた瞬間に回復しているんだ」
「モノに回復魔法を――!?」
「回復魔法の応用、その2ってところだな」
以前、ブレスとの戦いで死の淵から蘇ったときに衣服は元通りにならず全裸のままだった。
それを克服するべく俺が考えたのが、これ。
俺に触れているものや身につけているものも体の一部として元通りに回復するよう、魔法の発動条件と範囲を改造した。
結果として、壊れても瞬時に回復し元通りになる、折れない木刀が実現したというわけだ。
「ま、どっちにしても私の敵じゃないわね。この【エアマスター】の風魔法の餌食になりなさい!」
身に纏ったローブをはためかせながらイリシャが俺に両手を向けた。
部屋の中が次々と風の刃で破壊されていく。
俺は風の刃から逃げ回りながら呟いた。
「――胸囲が【エアマスター】か」
「なんですって!?」
「いや、何も言ってない」
「嘘よ! 私の胸が虚無とか断崖絶壁とかまな板とか言ったでしょ!?」
「いや、マジでそこまでは言ってない」
「ムカつくわね。この剣で直接殺してあげるわ」
イリシャは空気で形成された剣を構え、俺へ突っ込んでくる。
その足が――破壊された床の瓦礫に触れた。
「悪いが、引きこもり生活を送る前に殺されるわけにはいかない。残念だったな」
「!?」
俺は仕掛けていた回復魔法を発動させた。
崩壊したはずの床が一瞬で元通りになり――そして、その上にあったイリシャの脚は床の中に埋まった。
つんのめったイリシャがそのまま床の上に転ぶ。
「な――何よこれ!?」
「お前が壊した床を直してやっただけだ。回復魔法の応用、その3ってところかな」
「う、動けない! 放しなさいよ!」
「俺を殺すとか言ってるやつを自由にするわけないだろ」
「じゃ、じゃあ身動きが取れなくなった私に乱暴するつもりでしょう?」
「エロ同人みたいに、か?」
「えろど……え? 何それ?」
転生前のネタが通じるわけが無かった。当たり前か。
「どちらにせよ俺にロリコンの趣味はない。安心しろ」
「ろりこ……え? どういう意味?」
「お前みたいな子供に興味はないってこと」
「だ、誰が幼女体型の色気がないガキよ!」
「そこまでは言ってない」
喚くイリシャに向かって、俺は木刀を振り下ろした。イリシャの首筋に軽く当たった木刀は、いとも簡単にイリシャの意識を奪った。首をトンってやって気絶させるアレだ。俺がシャペールから習った技のひとつでもある。




