第47話 胸周りがエアマスター
「協力感謝する、フルスト殿。彼らから情報が得られれば、それを足掛かりにレザンまで迫ることができるはずだ」
「案外呆気なかったな、中佐」
「我々の準備が彼らの計画を上回ったということだろう」
……そうだろうか。あまりにも手ごたえが無さ過ぎる。
ということは――やはり。
俺がひとつの考えに思い至った時、奇妙なことに気が付いた。
「静かすぎる……?」
「どうしたんですか、フルスト様ぁ?」
「妙なんだ。音が聞こえない」
「さっきからこの建物はずっと静かですけどぉ……?」
「いや、そうじゃない。鳥の鳴き声ひとつ聞こえないのは妙だ」
嫌な予感がした。
次の瞬間、執政官室の窓が粉々に砕け散り、室内が縦横無尽に切り刻まれた。
俺は咄嗟にリムニを押し倒して床に伏せた。
「ふっ、フルスト様ぁ!?」
「敵襲だ、中佐! まだ敵がいる!」
「伏兵か……っ! 全員警戒しろ!」
「いや、撤退させるんだ! 反ステイナー派を連れて撤退するんだ! ただの人間じゃ相手にならない!」
「一体誰が――!?」
「この攻撃は……!」
俺は知っている。
音が消え、見えない斬撃で辺りが切り刻まれる。
こんな芸当ができる人間は、恐らく一人しかいない。
立ち上がり、割れた窓に向かって木刀を構えなおす。
「あーあ、やっぱり失敗しちゃったのね。ま、おかげで私の出番が来たってわけだけど」
パリッ、と窓ガラスを踏みつける音がする。
蜃気楼のように現れたのは幼女体形のスレンダー金髪少女―――【エアマスター】イリシャ・ディールだった。
「やはりお前か……! 風魔法で形成した空気の幕で光を屈折させて周囲から姿を見えなくし、この部屋に潜んでいたというわけだな!?」
「な――何よあんた!? なんで私の技を知ってるのよ!?」
設定資料集で読んだからな!
狼狽えるような表情のイリシャを他所に、俺はリムニの方を見た。
「リムニ、中佐たちと一緒に逃げろ。こいつは俺が相手をする」
床に屈んだままのリムニの手を引いて立ち上がらせ、中佐たちの方へ押しやる。
「わ、わわ、分かりました、ふ、フルスト様ぁ……」
なぜか顔を赤くしていたリムニは、夢遊病者みたいな足取りでカタヨル中佐がいる方へ歩き出した。
「フルスト殿、どうされるつもりだ!?」
「さっき言った通りだ。俺が時間を稼ぐ。中佐は撤退しろ」
「しかし!」
「メチャムを守り反ステイナー派を捕えるという目的は既に達しているはずだ!」
「……分かった。フルスト殿、ご武運を!」
「リムニを頼む!」
「承った!」
中佐がリムニを連れ、兵たちと共に部屋を出ていく。
「逃げようったってそうはいかないんだから!」
イリシャが動く。
俺は直感で空気の刃の射線上に滑り込み、木刀を振るった。
手ごたえがあった。
俺の木刀で弾かれた刃が弾け飛び、執務室を破壊した。
目の端で中佐たちが逃げ延びたのを確認し、俺は再びイリシャへ木刀を構えた。
「ただの木刀で私の風魔法を……? あんた何者なの?」
イリシャが俺に訝し気な目を向ける。
「フッ、過去を捨てた男とでも言わせてもらおうか」
「……あれ、あんたもしかしてミリアルド・ヒリューじゃない?」
「他人の空似だ!」
ヤバい、バレてる。
俺は焦りを誤魔化すようにイリシャへ切りかかった。
「接近戦で挑もうってわけね。いいわ、相手してあげる!」
イリシャの周囲に空気の渦が発生した。直後、彼女の右手には空気で作られた半透明の剣が出現していた。
空気で作られた剣――名づけるならエアってところか。必殺技はきっとエヌマエリシュとでも言うのだろう。知らんけど。




