第44話 ミリアルド亡き後
「や、やめろよメチャム。他人に見られたらどうするんだ」
慌てて駆け寄ると、メチャムは涙を拭いながら立ち上がり言った。
「従者は外で待たせてあります。ここへ来たのは私ですから、人の目を気にする必要はありません。それにしても我が君、よくぞヒリューの地へお戻りになられました」
「よせって。今の俺はフルスト・ロウ。ヒリュー領の領主でも何でもないんだから。それより早く本題に入ろう。メチャム、座ってくれ」
俺に促されるまま、メチャムは椅子に座った。
「しかし我が君、本日は一体どのようなご用事で?」
「俺が今、ステイナー領にいることは知っているよな。そこに反ステイナー派と呼ばれる勢力が存在しているってことも」
「もちろんです。忘れもしません。ステイナー家との調印式で我が君を襲った連中でしょう」
「その通りだ。奴らがお前を狙っている」
「反ステイナー派が? ……私を?」
メチャムが目を丸くする。驚くのも無理はない。メチャムにとっては反ステイナー派に狙われるなんて夢にも思わないような話だろうから。
「メチャムが話をまとめてくれた、ステイナー派への資金援助の件があるだろ? あれで反ステイナー派の不興を買ったというわけさ。奴らの中でメチャムの拉致計画が動いている」
「なんと……」
「しかも一週間後、いや、ヒリュー領に来るまで2日くらい使っちゃったから、ほんの数日後に実行予定だ」
「な、なんと!?」
椅子から転げ落ちるような勢いで驚くメチャム。
「だからこうして伝えに来た。ヒリュー領の警備とメチャム自身の安全に気を付けるようにな」
「ありがとうございます我が君! このメチャム、猛烈に感動しております!」
「……そこで、一つ協力して欲しいことがあるんだ」
「何でもおっしゃってください、我が君」
「反ステイナー派は、ステイナー派が権力を取り戻してから目立った動きをしていなかった。今回のメチャム拉致計画が、久しぶりの大規模な活動なんだ。これは奴らを一網打尽にするチャンスでもある」
「ほう。つまり、反ステイナー派を捕えるのに協力が欲しいというわけですね?」
「話が早くて助かるよ」
「我が君からの申し出とあれば、如何様なことでも成し遂げて見せましょう」
メチャムが椅子に座りなおす。俺も無意識の内に姿勢を直していた。
「……まずは、ステイナー領から反ステイナー派を捕えるための戦力が派遣される。これを受け入れる場所を用意して欲しい」
「人数は?」
「それほど多くない。5名くらいだ。カタヨル中佐という人物を通じて、ステイナー領から正式な依頼があるはずだ」
「すぐに手配いたしましょう。それから?」
「そうだな。ここからは当日の細かい動きの話になる―――」
◇◆◇◆
メチャムとの話し合いが終わり、俺は行政庁を出た。もちろん人目につかない裏口から。
久しぶりのヒリュー領は実家に帰ってきたような安心感を俺に与えてくれた。いや、まあ、事実上は確かに実家なんだけど。
「……ヒリュー領も変わりつつありますな」
シャペールが呟く。
「領主が変わったからな」
「それだけではありません。ミリアルド様――いえ、フルスト様がご準備されたことが花開きつつあるのです。道中でヒリュー領の人々を見かけましたが、誰もが活力に溢れております。ヒリュー領はこれから更に良い領地となるでしょう。やはり貴方様は名君の器であられた」
「メチャムたちが優秀なんだよ。もちろんシャペールやリムニの協力もあったし。……それじゃシャペール、手はず通りに頼む」
「承知しております。私は一足先にステイナー領へ戻り、カタヨル中佐たちに潜伏場所や今後の作戦をお伝えしましょう」
「それから先のことも――任せる」
「分かっております。フルスト様からの命、必ずや果たして見せましょう」
「俺の杞憂なら良いんだが、念のためにな」
「ええ。フルスト様もお気をつけて。リムニ、フルスト様のことをよろしく頼みますよ」
「はいっ! 絶対にお守りしますぅ!」
リムニが元気よく返事をして胸を張る。たったそれだけの動きだったのに、リムニの双丘は暴力的なまでに揺れていた。デカ過ぎんだろ……。
「じゃあ、また。数日後」
「ええ。それではしばしのお暇を」
シャペールはそう言い残し、風のように颯爽と去っていった。




