第43話 再びヒリュー領へ
「……中佐の言う通りにしよう。俺はこれからヒリュー領に向かって、中佐たちが滞在できるような場所を用意しておくよ」
「情報のやり取りはどうやって行うつもりだ、フルスト殿」
「そこはシャペールが伝令役をうまくやってくれるはずだ。頼めるか?」
「もちろんでございます、フルスト様」
俺の背後に控えていたシャペールが恭しく頭を下げる。
「今回はフルスト殿に頼らせてもらうことになるな。すまないが、よろしく頼む。では解散だ。皆の健闘を祈る」
中佐の言葉で俺たちは一斉に動き出した。
俺はシャペールやリムニと共にホテルを出て、一度家へ戻ることにした。
「フルスト様、ヒリュー領に戻られるのですか?」
家へ向かう馬車の中でシャペールが俺に尋ねた。
「時間が無いからな。中佐がステイナー領の外交チャンネルでヒリュー領へ情報を伝えるよりも、俺が直接メチャムに会った方が早い」
俺の隣でリムニが、ううんと首を傾ける。
「でもぉ、反ステイナー派の人たちは何が目的なんでしょうかっ? メチャムさんを誘拐してどうするんですかぁ?」
「ゾップさんが言った通りだよ。メチャムを拉致することでヒリュー領を脅して、ステイナー派への資金援助から手を引かせたいんだ。ヒリュー領は実権が俺から行政庁へ移って政治的に混乱している時期だから、些細なことが命取りになる。何度も言うように、ヒリュー領を狙わせるわけにはいかない」
「襲撃があると分かっていればメチャム様も対策を立てられるでしょう。あとは時間だけが問題ですな」
「ヒリュー領に戻るのには一週間もかからない。中佐たちと合流するなんとかなるさ」
メチャムと会うのにそれほど手間は要らないだろう。俺が会いに来たということが伝われば、メチャムは時間を作ってくれるはずだ。
とにかくヒリュー領に行ってみるしかない。
◇◆◇◆
メチャムとの会談は、シャペール――もといキャンベルの人脈をフル活用し、何とか場を整えることが出来た。
会談の場所として選ばれたのは行政庁の一室。
秘密裏の会議を行う場として用意していたその部屋で、俺はシャペールやリムニとともにメチャムを待った。
「……それにしてもここが行政庁か。実際に中へ入るのは初めてだな」
豪華さよりも機能性を重視した行政庁の建物は、よく言えばシンプルな、悪く言えば殺風景な場所だった。
「私さっき少しだけ辺りを見てきましたけどぉ、みなさん忙しそうでしたよぉ。でもなんだか生き生きしてましたっ」
「フルスト様のお屋敷で働いていた我々の元同僚も今はここに勤めていますからな。それぞれの得意分野に合わせて行政庁の仕事を割り振られたフルスト様の手腕でございます」
「俺はただ、みんなが少しでも楽に働いてくれればいいと思っただけだよ。実際に仕事をするのは俺じゃないんだから、別に俺の手柄でも何でもないさ」
「謙虚さまでも身につけられたとは……やはりあなたこそヒリュー領の主に相応しいお方でございます!」
シャペールが涙交じりに言う。
「やめてくれよ。もう俺はヒリュー領の人間じゃないんだ。領主に戻るつもりもないし、そのためにすべてをメチャムや行政庁に任せたんだから」
そのとき、ドアがノックされた。
続いてゆっくりと扉が開き、懐かしい小太りのシルエットが室内に現れた。
「わ……我が君!」
俺の顔を見た瞬間、小太りの男――メチャムは泣き崩れてしまった。




