第42話 年長者
「簡単なことですよ。私がヒリュー領の立場なら、ステイナー領内の勢力争いに巻き込まれるくらいならステイナー領から手を引く――つまり資金援助を打ち切るでしょう。ステイナー派が優勢とは言っても、ヒリュー領からの援助が必須であることに変わりありません。何かのきっかけで反ステイナー派が再び勢力を盛り返せば次こそはステイナー領の実権を奪われますよ」
「ヒリュー領を守ることが我々の利益につながるということか」
「そうです、中佐。だからこそ、たとえ不確かな情報でもそれを根拠に行動せざるを得ない。万が一のことが起こってからでは遅いですからね」
「……そうだな。我々が次に考えなくてはならないのは、これ以上反ステイナー派の思い通りにさせないことだ。フルスト殿」
「え、あ、俺?」
今まで一言も喋っていなかったゾップさんがいきなりまともなことを言い出したので呆気に取られていたら、急に名前を呼ばれたので更に驚いた。
「ヒリュー領のことは我々の中でフルスト殿が最も詳しいだろう。指示を頼む」
中佐が俺に頭を下げる。
「い、いや、中佐。そこまでする必要はないよ。ただ――そうだな。まずはミカ、反ステイナー派の動きを探ってくれ。一週間後、本当に奴らがヒリュー領に潜入するのか裏付けが欲しい」
「……分かったわ。やられっぱなしなのも性に合わないし。今日の集会に来てた人間の中に知った顔があったから、そこを手掛かりに探ってあげる」
「中佐は通常の外交ルートでヒリュー領の行政庁に連絡を。警備を強化するように」
「承知した。ロメロ、馬車の用意を。本部へ戻り調整しよう」
「了解っス!」
「ゾップさんは――金鉱脈の地下について情報を集めてください」
「地下ですか?」
「そうです。ラウルは金鉱脈の地下にある『コア』と呼ばれる物を狙っているようなんですよ。心当たりはありませんか?」
「いえ、残念ながら私には……。とにかく調べてみましょう」
「頼みます」
「『コア』か……。私も初めて聞く言葉だ」
「あたしもそんなもの知らないわね。金鉱脈の地下にあるんだから、鉱石の一種なのかしら」
中佐とミカがそれぞれに考え込む。
「ラウルは『運命』について知りたいと言っていた。もしかすると、彼の言う『運命』と『コア』には関係があるのかもしれない――けど、今は反ステイナー派からヒリュー領を守ることを優先したい。『コア』の調査はゾップさんに任せて、とにかく反ステイナー派の動きを追おう」
「フルスト殿の言う通りだな。では、それぞれの仕事に取り掛かるとしよう。フルスト殿はどうするつもりだ?」
「俺は独自のルートでメチャムと接触してみるよ。反ステイナー派がメチャム拉致に動くとすれば逆にチャンスかもしれない。向こうが派手に動けば動くほど、こちらとしては反ステイナー派の動きを掴みやすくなる。うまくいけば一網打尽にすることができる。そのためには、メチャムはじめヒリュー領の協力が必要だ」
「……先ほどのゾップさんの言葉と矛盾するような気がするな。ヒリュー領を我々の権力争いに巻き込むような真似はできないと思うが、どう説明する? フルスト殿」
「もしメチャムの拉致が成功してしまえば、ヒリュー領は否応なしにステイナー領の内乱に巻き込まれるだろう。そんな事態を未然に防ぐために協力を要請するってだけだ。ダメ元で交渉してみるよ」
「分かった。フルスト殿に任せよう。今後の予定だが、このホテルを拠点に行動すると言うのはどうだろう。ヒリュー領襲撃まで時間が無い。我々がいつでも顔を合わせられるようにしておく方が良いと思うが」
そう言って中佐は室内の面々を見渡した。
反対の声を上げる人間はいなかった。




