第4話 命の危機
「とりあえず瞑想から始めてみるよ」
「ええ、ええ。自身を見つめなおすのも立派な修行です。食料類はわたくしめとミーアが定期的にお届けに参ります」
「念のため確認だけど、俺がここにいることを知っているのはミーアとキャンベルだけなんだよな?」
「もちろんですっ! ミーアはキャンベル様以外誰にも言ってません!」
と、胸を張るミーア。その反動で、彼女の幼い顔つきに似合わない迫力ある双丘が揺れた。うわっ、でっか……。
「では我々は失礼いたします。良いお時間となられますことをお祈り申し上げますぞ、ミリアルド様」
「ああ。二人ともありがとう」
「おお……ミリアルド様が他人に感謝を……!?」
キャンベルが膝から崩れ落ちる。ミーアはその肩を抱えるようにしてキャンベルを支えながら俺の方へ軽く一礼し、老人と巨乳メイドのペアは森の茂みの中へ消えていった。
さて。
これでゆっくり引きこもれるはずだ。
あとは一か月後、『ブレス・オブ・ファンタジー』の本編が始まるときまで身を隠しておけば死の運命は回避できる。
その後、ほとぼりが冷めるのを待って街の片隅とかに移り住んで、大人しく余生を送ればいいか。
もちろん、『悪役貴族に転生した』なんて馬鹿げた現状がただの夢で、一か月の間にその夢が覚めてしまえばそれに越したことはないのだけれど。この中世風の世界には、引きこもりの必需品であるネットやゲームも存在しないだろうし。
何はともあれ、一か月。
退屈にさえ耐えられれば、命は助かるはずだ。
◇◆◇◆
異世界引きこもり生活、3日目。
食料は毎日、太陽が昇る前と太陽が沈んだ後に届けられる。
暇を持て余していた俺は、キャンベルが差し入れてくれた本を読んでいた。
元がゲームだからか、この世界でも言語は日本語が使われているらしく、その本も日本語で書かれていたので難なく読むことが出来た。
本は初心者向けの魔法について書かれたものだった。
『ブレス・オブ・ファンタジー』の世界には魔法が存在し、攻撃魔法や回復魔法など、いくつかの種類がある。ミリアルドは回復魔法が得意なのは嫌というほど知っているが、キャラによっても得意な魔法は違っている。この世界における主な動力も魔法によって生み出されているとかいう設定だったと思うけれど、ゲーム攻略にはあまり関係なかったのでよく覚えていない。
「『ヒアル』か……」
回復魔法について書かれたページの、最初に記載されていた魔法だ。序盤から使えるが回復量は多くない初歩の回復魔法。RPGとかでパーティの回復役が最初に覚えている感じのアレだ。
「確か、ミリアルドはワンランク上の『ヒアルラ』まで使えたよな」
試してみるか。
俺は本に書かれている通り、両手を前に出し、壁に向かって唱えた。
「『ヒアルラ』」
既に日は暮れており、ランプの明かりだけが灯っていた部屋に緑色の光がぼんやりと浮かぶ。俺の両手から生じたその光は、まさに『ブレス・オブ・ファンタジー』で魔法を発動したときのエフェクトそのものだった。
「これが回復魔法か!」
予想以上にうまくいって驚いた瞬間、激しい疲れを感じて俺は座り込んだ。
全身に力が入らない。まるで持久走を走り終えた後のようだ。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、どうやらこれは魔法を使った代償のようなものらしい。
「こんなに疲れるのか、魔法って……!」
そう呟いたとき、突然部屋の窓ガラスが割れた。同時に複数の人影が部屋の中になだれ込んでくる。
「え、え!?」
黒い装束に身を包んだ男たちだ。目出し帽のようなものを身につけており、目元しか確認できない。
「……ミリアルド・ヒリューだな」
「な、なんで俺の名前を……!?」
「外遊中など偽りこんなところに隠れていたとは。噂に違わぬ卑怯者め」
男たちは一斉に短剣のような刃物を構えた。
っていうか、何これ? こんなイベント、俺は知らないけど――平和なイベントでないのは間違いなさそうだ。
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