第37話 集会所へ
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数日後、潜入作戦を決行する日がやってきた。
反ステイナー派が集会を行うのは、ステイナー領の郊外にある集会所だった。
俺たちは集会所近くのホテルの部屋を借り、作戦前最後の打ち合わせを行っていた。
カタヨル中佐がテーブルの上に集会所の見取り図を広げる。
「……実際に潜入するのはフルスト殿、ラウル君、ミカの3名。私とロメロ、そしてゾップさんは後方待機だ。さらに二名――リムニ殿とシャペール殿が万が一に備えて集会所周辺に待機する」
「そのリムニとシャペールって人たちは信用できるのかしら?」
ミカが俺に訊く。今日のミカは、反ステイナー派の中に紛れても目立たないような庶民的な服装をしていた。
「二人は俺の部下だ。実力は保証する。いざという時の戦闘要員は多い方が良い」
「彼らには既に現場の偵察を依頼している。フルスト殿が連れて来た方々だ、信用してよいだろう」
「中佐がそう言うなら、分かったわよ」
渋々納得したとでも言いたげな表情でミカが頷く。
リムニとシャペールは既に集会所周辺で待機していて、定期的に反ステイナー派の様子を報告してくる手はずになっていた。
「もちろん万が一が起こらないのが一番――でしょ? フルストさん、カタヨル中佐」
ホテルの窓から集会所の様子を伺っていたラウルが、柔和な笑みをこちらに向ける。
「無論だ、ラウル君」
「フルストさんの考えも分かりますよ。ですが、安心してください。僕がリムニさんとシャペールさんの出番が無いよう、あなたをサポートしますよ」
「……心強いよ、ラウルさん」
「呼び捨てで構いません。そちらの方が僕も気楽です」
「分かったよ。今日は頼む、ラウル」
「任せてください」
ラウルの言葉には自信が満ち溢れていた。その表情に、俺たちを裏切るような気配は全く感じられない。ラウルが裏切者っていうのは記憶違いだったのだろうか。
「じゃ、そろそろ現場に向かうとしましょうか。あたしは単独行動、ラウルはフルストのお守ね」
「気負う必要はありませんよ、フルストさん。敵地に突っ込んで一網打尽にするってわけじゃないんです。今日の目的はただの情報収集ですから」
「ありがとう、ラウル」
「礼は要りません。こういうのは僕の得意分野ですからね。さて、行きましょうか。中佐、退路の確保は頼みますよ」
「ああ。そちらの幸運を祈る」
後方待機のグループを部屋に残し、俺たちは集会所へ向かった。
ホテルの外は静かで、あまり人影もなかった。俺が住んでいるステイナー領の中心街とはかなりの違いだ。
「……ステイナー領でも人がいないところがあるんだな」
思わず呟くと、ラウルが愉快そうに笑い声を上げた。
「もちろんですよ。ステイナー領がいくら栄えているといってもやはり中心は金鉱脈。そこから離れるにつれて人も商売のチャンスも減っていくんです。ステイナー領の全領土が中心街のようにはいきません。だからこそ、反ステイナー派のような連中も現れる」
「中心部ばかりが豊かになって、ここみたいな郊外は貧乏なままで……貧富の差が生まれるからというわけか?」
ラウルは我が意を得たりとでも言いたげに頷く。
「鋭いですね、フルストさん。その通りです。反ステイナー派の構成員は主に貧困部の住人。それを中心部で権力を握れなかった商人や官吏が支援しているような形です。いや、支援というのは正確じゃないですね。つまり貧民たちが利用されているんですよ、中央の連中の権力争いに」
「複雑だな」
「だから僕らも苦労してるんです。一般の構成員を捕えても根本的な解決にはなりませんからね。ですが、今日は反ステイナー派を支援する人物の正体に迫るチャンスですから。今日をきっかけに状況を打開できれば良いんですが」
先頭を歩いていたミカが立ち止り、こちらを振り返る。その背後にはホテルの窓からも見えていた集会所があって、大勢とは言わないまでも人が集まっていた。
「着いたわよ。会が終わったらまたここに集まりましょう」
ミカがショートヘアの前髪を整えながら言った。
ラウルが頷く。
「ええ。トラブルが起こった時は各自脱出するということで良いですね?」
「そうね。ま、そんな間抜けな奴はいないと信じたいけど」
「では僕らも行きましょうか」
「ああ、そうだな」
俺はざっと周囲を見渡した。それほど大きくない会場だ。周辺には反ステイナー派だろう着古した衣服に身を包んだ人々が集まっている。そしてそれらの人混みの中に、リムニとシャペールの姿があるのを見つけた。
リムニは俺に気づくと、親指を上げてグッドサインを送って来た。
俺も親指を上げて返す。
それからラウルに続いて集会所の入り口へ向かった。




