第36話 もう疲れちゃって 全然動けなくてェ...
「うっ、うう……!」
「な――っ!? 泣いてるんですかっ、フルスト様!?」
「もう疲れちゃって、潜入任務とか任されちゃってェ……」
「潜入任務ですかぁ?」
「反ステイナー派の会合に潜入するんだよ……俺に出来るわけないじゃん、そんなの!」
リムニはキラキラした瞳で不安そうにまばたきし、俺の額に手を置いた。
「もう良いんじゃないですかぁ? 逃げちゃいましょうよ、フルスト様ぁ」
「……え?」
「だってぇ、王様に殺されそうになっても助かった命じゃないですかぁ。わざわざ危ない目に遭う必要、ないんじゃないですかぁ?」
そう言ってリムニは、柔らかい手で優しく俺の頭を撫でた。
途端に俺の全身が安心感に包まれ、力が抜けていくのを感じた。
や、ヤバい! 快楽堕ちする! リムニの太ももから離れられないダメ人間になる!
このまま全部投げ出して逃げ出しても誰も文句は言わないよな――リムニの柔らかい声音や太ももに包まれながら俺はそんなことを考えた。
もうどうなってもいいや……いや。
ダメだ。
どうなってもいいわけない。
「それでも俺がやらなきゃ」
「フルスト様……」
「ヒリュー領が危ないんだ。守れるのは俺しかいない。それに俺には、メチャムに全部を任せてきた責任がある」
俺は体を起こした。
リムニに甘やかされた効果なのか、不思議と疲れは和らいでいた。
「頑張り屋さんですねぇ、フルスト様は」
そう言ってリムニは微笑んで、もう一度俺の頭を撫でた。
「……一度引き受けちゃった話だしな。自業自得と言えば自業自得だ」
「でも、一人で背負っちゃう必要はないんですよぉ。私とシャペールさんもお手伝いしますからぁ」
「手伝う?」
「はいっ! フルスト様と一緒に行きますぅ。そうしたらフルスト様も安心でしょっ?」
「確かに二人が来てくれれば助かるけど……」
リムニの回復魔法とシャペールの武術があればかなりの戦力増大になる。
「私たちは最初からそのつもりですよぉ。今度こそフルスト様をお守りします。たとえフルスト様がついてくるなと言ってもついていきますからねっ!」
と、そのとき玄関の方でドアが開く音が聞こえた。
「近隣を散策していたら遅くなってしまいましてな。おかげでこの辺りの地形はおおよそ把握いたしましたぞ。買い物もこの通り」
大きな紙袋を抱えたシャペールがリビングへ入ってくる。それを見てリムニは勢い良く立ち上がった。
「シャペールさんっ! フルスト様をお守りする時が来ましたよっ!」
「おお、そうですかそうですか。王家からの刺客を返り討ちに出来なかった無念、存分にはらして見せましょうぞ。それでフルスト様、一体どのようなお話なのですかな?」
二人の言葉は力強く俺の胸の内に響いた。
リムニとシャペールの協力があれば潜入作戦もきっとうまくいく。
さっきまでの憂鬱な気持ちは嘘のように晴れていた。
「シャペール、実はだな……」
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