第31話 メチャム拉致計画
「彼は自分の死後、ヒリュー領の政治が混乱しないために行政庁という組織を作った。合議制を用いて領地の政治を行う組織だ。リリィ様はこの組織を、領主による独裁に代わる新たな政治の実現だと大変高く評価しておられる」
「そうかそうか」
「……なぜ貴公が嬉しそうなんだ?」
「あ、いや、何でもない。話を続けてくれ」
俺は咳払いをして誤魔化しつつ、カタヨル中佐に話の続きを促した。
「そうか? まあ、いい。問題はこの行政庁だ。現在、この行政庁という組織はメチャムという人物を中心に動いている。彼はミリアルド卿の腹心でもあった。ステイナー領とヒリュー領の支援関係について草案をまとめたのも彼だ。優秀な男だよ」
「そうなんだよな」
「だから、どうしてさっきから貴公は嬉しそうなんだ?」
「ああ……いや何でもないんだよ。で、メチャムがどうしたんだ?」
「反ステイナー派の狙いは彼だ」
「……え?」
「行政庁の中心人物、執政官のメチャムを拉致する――それが反ステイナー派が考えている計画だ」
「なん……だと……!?」
あんな小太りのオッサンを拉致して何が楽しいんだ!?
反ステイナー派の連中には、そういうオッサンを好んで拉致したい性癖でもあるのだろうか。
うーん……他人の趣味に口出しする気はないけど……。
「貴公が驚くのも無理はない。ヒリュー領における政治の実権はミリアルド卿という個人から行政庁という組織へ移った。それは確かだ。しかし、いくら行政庁が複数人による組織と言っても、現状はメチャムという有能な人物が一人で運営している状態だ。そんな彼が失われれば、ヒリュー領は今度こそ混乱に陥るだろう。そして我らステイナー派は未だヒリュー領からの支援を受け続けている状態だ。ヒリュー領が混乱し資金援助が停まれば我々も大きな痛手を負う。反ステイナー派の計画は潰さねばいか――げっほげっほ!」
残りのコーヒーを煽った中佐がむせる。
「大丈夫か中佐。リムニ、やっぱり冷たい水を」
「はいっ、フルスト様」
リムニが手際よく水を持って来て、中佐に手渡す。
中佐は水を飲み干すと荒い息で呼吸をしながら、それでも深く息を吐いた。
「すまん、興奮するといかんな」
「落ち着いてくれ、中佐。とりあえずヒリュー領が危ないのは分かったよ」
「反ステイナー派のヒリュー領に対する動きへの牽制はフルスト殿に一任したと、リリィ様から聞いている。頼むぞ、フルスト殿」
「……思っていたより大役だな、それって」
何も覚悟していなかったわけではないけれど、予想以上だった。
とりあえずヒリュー領関係の問題は俺にお任せってわけだな。話を聞いている限りだと、確かに反ステイナー派がヒリュー領に目を付けた原因は俺にあるらしい。
リリィに資金援助をすると決めたのも俺だし、メチャムを筆頭とする行政庁に政治を一任したのも俺だ。
それを放っておくなんて、俺には出来ない。
「詳細を記した資料は後程お渡ししよう。ひとまずは我々の仲間に会ってもらいたい。ご同道願おう、フルスト殿」
「分かった。リムニ、ちょっと行って来る。買い物に行っているシャペールにはよろしく伝えておいてくれ」
「ええっ!? フルスト様、お一人で大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫だよ。案内してくれ、カタヨル中佐」
「分かった。フルスト殿の安全は我々とリリィ様が保証する。安心してくれ」
「ですけどぉ……。ピンチになったら呼んでくださいね。私、どこにいてもフルスト様を助けますからっ!」
本気かよ。まあ、リムニの気持ちはもちろん嬉しいけど。




