第30話 次期国王選挙
「いよいよ次期国王の選挙が始まるのか……」
朝の優雅なひととき。
俺は集合住宅のリビングで、リムニが淹れてくれたコーヒーを片手に、テーブルの上に開いた新聞を眺めていた。
60歳を迎えた国王は引退しなければならないというのが、このマークニル王国における古くからの掟だ。
そして今年、現在の国王が60歳になる。
だから次期国王を決めなければならない。そのための選挙だ。
選挙は、複数の候補者の中から国民が一名を選び票を投じる形で行われる。いわゆる普通選挙というやつだ。
候補者となるには、国王もしくは諸侯たちによる推薦を受けなければならない。
『ブレス・オブ・ファンタジー』本編では、国王から推薦された主人公が他の候補者たちと争い勝ち抜いていく様も描かれるのだが――まあ、それは本編の話だ。
選挙なんて俺には関係ない。今、最も俺が気にするべきこと。それは――。
「む、なかなか美味いコーヒーだ。リムニ殿と言ったか。感謝する」
「そんなぁ、このくらいメイドとして当然ですよぉ」
「よろしければもう一杯いただけないか?」
「はい、今淹れてあげますね~!」
台所ではリムニが機嫌よくコーヒーを準備している。
「……………」
「どうされた、フルスト殿」
「いや……なんで当たり前みたいな顔をしてあんたがウチのリビングに居座ってるんだ?」
俺の向かい側に座ってコーヒーを啜っていたのは体格のいい筋肉質の男――カタヨル中佐だった。
「何を驚いている? フルスト殿を迎えに上がったのだ」
「まだ朝だけど……」
「反ステイナー派との戦いには朝も夜も関係ないだろう。付き合ってもらうぞ」
中年のゴツいおじさんに付き合って欲しいと言われても何もときめかない……。
「反ステイナー派も、コーヒーを飲む間くらいは待っていてくれるだろ?」
俺はコーヒーの残りを啜った。まだ温かかった。
ちなみにシャペールは街へ買い出しに行っている。だから部屋の中には今、俺とリリィ、そしてカタヨル中佐の三人がいるという状況だ。
「お代わりの準備が出来ましたよっ! フルスト様も飲みますかぁ?」
「ああ、俺の分も頼む」
「分かりましたぁ!」
笑顔を浮かべたリムニは空になったカップへコーヒーを注いで回った。
彼女が前かがみになった瞬間、リムニの存在感ある胸が深い谷間を作った。
「…………」
「どうぞ召し上がれ、フルスト様!」
「ああ――ありがとう(いろんな意味で)」
二杯目のコーヒーは一杯目よりも味わい深かった。理由は知らない。敢えて考えない。
「伝えられる情報だけは今のうちに伝えておこうか、フルスト殿」
「……分かった。聞かせてくれ」
「反ステイナー派がヒリュー領に対して攻撃を仕掛けるという話はますます現実味を帯びてきた。既に彼らはその本格的な準備に入っている」
「余計なことをする奴らだな。八つ当たりも良いところだ」
「もちろんだ。ステイナー家を裏切った恩知らず共でもある」
「で、具体的にはどうなんだ? 反ステイナー派はヒリュー領に対して何をしようとしているんだ?」
カタヨル中佐はコーヒーを一気に煽った。
淹れたばかりなのに、熱くないのかな……。
「中心人物の拉致だな」
「拉致?」
「つまり――」
中佐が言葉を切った。
俺は思わず聞き入っていた。
しかし、中佐は一向に言葉の続きを口にしなかった。
「拉致ってどういうことなんだ、中佐」
「あ……いやすまん、口の中を火傷してしまったらしい。痛みで言葉が出なかった」
「やっぱり熱かったのか……。リムニ、中佐に冷たい水を」
「いや大丈夫だ、すまない。話を戻そう。ヒリュー領の領主だったミリアルド公が王家からの刺客によって殺されたのは貴公も知っているだろう?」
「ああ、うん。まあ」
多分誰よりも知っているだろう。
俺こそがミリアルドだとバラすわけにはいかないから黙っておくけど。
読んでいただきありがとうございます!
毎日7時10分、19時10分の2回更新予定です。
お見逃しがないよう、ブックマークしていただけると幸いです!




