第29話 新たな戦いへ
「でも、結局はあなたの計画通りになった。ミリアルド・ヒリューは死んだことになり、あなた自身はヒリュー領から逃げ延びて私の領地へやって来た」
ヒリュー領を脱出した俺は、事前にリリィと打ち合わせをしていた通りにステイナー領へと逃げ延び、フルスト・ロウという人物として生きていくことになった。
リリィの協力が無ければ成功しなかった計画なのは間違いない。
「礼を言うのが遅れたな。改めて、リリィのおかげで助かったよ。国を欺くような真似をさせてすまなかった」
「いいえ、あなたに守ってもらわなければ失っていた命です。まだまだご恩は返し切れていませんよ」
「そう言ってくれると気が楽だ」
「とにかく心配しました。あなたが無事にステイナー領へ現れたとき、どれだけ安心したことか。良かったです、生きていてくれて」
そう言って微笑むリリィの目の端にはうっすらと涙が浮かんでいた。
……こんなに俺って、リリィから大切に思われていたのか。もっとビジネスライクな付き合いかと思っていた。っていうかリリィのこんな表情、『ブレス・オブ・ファンタジー』本編にも設定資料集にも出てこなかったはずだ。ファン冥利に尽きる。生きててよかった!
「しかし、反ステイナー派との戦いはこれからだろう? 安心するのはまだ早いんじゃないか。それと、疲れたもう無理だって言うのにもまだ早い」
俺が言うと、リリィは少し怒ったように頬を膨らませた。
「分かっていますよ。ちょっと弱音を吐いてみたくなっただけです。私はステイナー家当主、リリィ・ステイナー。反ステイナー派を倒し領地に真の平穏を取り戻すのが、私の役目です」
リリィは背筋を伸ばし、凛とした表情でそう言った。
「……さすがだな」
「当然です。でも……私が疲れてしまってどうしようもないとき、領主の経験があって魔法も得意でいざという時に私を守ってくれるような人がパートナーだといいのになって思うんです」
「……え?」
「そろそろ行かなきゃ。仕事はいっぱいあるんです。また二人きりでお話ししましょう、フルスト様」
そう言ってリリィは、机の上に置いていた俺の手を包み込むように両手で握った。
「リリィ……」
「お帰りの馬車は用意してあります。中佐がご案内しますから。それではまた、フルスト様」
リリィは俺から手を放し、ドアを開けて部屋を出て行った。
ドアの向こうで、どこからから現れたリリィの部下たちが彼女を取り囲むのが見えた。
俺も立ち上がって部屋を出た。
「フルスト様、お話は順調に進まれましたかな?」
扉のすぐ脇で控えていたシャペールが歩み寄ってくる。
「まあな。それより、巻き込んですまない。また忙しくなる」
「反ステイナー派のことですな? お気になさらず。ヒリュー領を守るためではありませんか。このシャペールめは、国王の刺客からフルスト様をお守りできなかった無念を晴らさせていただくとしましょう」
「リムニも良かったか?」
シャペールの背後に控えていたリムニが顔を上げる。
「私もシャペールさんと同じ気持ちですぅ。今度こそフルスト様をお守りしますからぁ」
「シャペールはともかく、リムニはあまり無理するなよ。毎日家事をやってくれてるだけで助かってるんだから。いつもありがとな」
「褒められちゃいましたぁ、えへへへぇ……」
リムニが満足げに笑う。
さて。
とりあえず引きこもり生活はしばらくお預けというわけだ。
反ステイナー派か。よく考えてみれば、『ブレス・オブ・ファンタジー』本編にそんな連中が出てきたことはなかった。
いや、本来のストーリーなら今頃ステイナー領を統治しているのは反ステイナー派だったはずだ。反ステイナー派も何も、本編中では彼ら自身が正当なステイナー領の後継者に成り代わってしまっていたのだから、そんな集団が本編に出てこないのも当たり前か。
それだけに相手の行動が読めない。
これまでは、ミリアルドが主人公ブレスによって殺されるという未来が分かっていたからこそ対策が出来た。
しかし、反ステイナー派は違う。本編に出てこない彼らがどのような動きをするかは全く分からない。
「ブレスたちから逃げ延びたようにはいかないかもな……」
俺は自分にだけ聞こえるくらいの声で呟いた。
そのときちょうどカタヨル中佐が現れて、俺たちについてくるよう合図をした。
「馬車の用意が出来たそうです、フルスト様」
「ああ、分かった。行こう」
シャペールたちを従え、俺は歩き出した。
両手にはまだリリィの手の感触が残っていた。
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