第28話 王の策略
「リリィ、反ステイナー派との戦いに俺も協力しよう。しかしあくまでもヒリュー領を守るためだ。それ以上のことはしない。それで良いな?」
「ええ、もちろんです。協力の申し出、心より感謝いたしますわ」
「手始めに今、リリィたちが持っている情報を教えてくれ。ヒリュー領を守るための策を考えたい」
「ええ、もちろんですわ。書類にまとめて、カタヨル中佐を通じてお渡ししましょう。それから、定期的な会合はこの場所で。こちらもカタヨル中佐を通じてお伝えしますわ」
「彼が伝令役というわけか」
「その通りです。彼以上に信頼できる人物はいませんから」
「分かった。ひとまずは中佐からの連絡を待っておけば良いんだな」
「はい。それと――」
「それと?」
「フルスト様と二人きりでお話しておきたいことがあります。よろしければ、リムニ様とシャペール様はご退席いただけますか?」
俺と二人きりで?
反ステイナー派についての情報だろうか。
「分かった。リムニ、シャペール、すまないが外で待っていてくれ」
「承知いたしました。では、リムニ」
「はいぃ……」
リムニとシャペールが部屋を出ていく。
そしてドアが閉まった瞬間、はあ、という深いため息が豪奢な室内に響き渡った。
見れば、リリィが全身の力を奪われたように机へ突っ伏していた。
「り、リリィ……?」
「つ――疲れました……」
「疲れ……?」
「疲れました! 緊張しました! 全身ガチガチです!」
リリィが突然子供のように喚きだす。
「ど、どうしたんだ……!?」
俺が訊くと、リリィは立ち上がりこちらへ駆け寄って来て、そして俺の隣の席に座り、再び机に突っ伏した。
「勢力争いでガタガタになった内政を建て直しながら反ステイナー派の対応もしつつ、金鉱脈の管理もしなきゃいけないなんて無理です。疲れました……」
「えーと……大丈夫か?」
俺の言葉にリリィは顔だけをこちらに向けて、答えた。
「大丈夫じゃないです」
「そうみたいだな、見れば分かる。しかし、俺が言うのもなんだが領主と言うものは……」
「分かってます! でも今は少しだけ甘えさせて欲しいんです!」
すごい迫力だ。
俺は反射的に頷いていた。
「そ……そうか。だったら仕方ないな」
「領主というものは大変です。四六時中誰かの目を気にして、領主としてふさわしい振る舞いをし続けなければなりません。頭がおかしくなりそうです。ぶっちゃけプレッシャー半端ないです。フルスト様も分かりますよね、この気持ち?」
「は、はあ……まあ……」
俺の場合、メチャムをはじめ優秀な人材がうまく領地の政治を運営してくれていたから、少しはマシだったかも。というか俺が領主だったのって一ヶ月くらいの間だし、森の中に引きこもったり魔法や武術の修行をしたりでほとんど領主らしいことはしていないわけだけど。
そんなことを考えている間にリリィは体を起こし、じっと俺を見つめた。
「心配しました」
「し……心配?」
「当たり前じゃないですか。国の中枢から派遣された騎士に殺されたって話でしたから」
「ああ……そのことか」
「誰も聞いていないから言いますけど、この件は次期国王選抜のデモンストレーションのようなものだと思います。あなたはまんまと餌にされたわけです」
「俺が餌だって?」
「あなたを襲った騎士――ブレス・ボッシュは平民の出身ですが、若くして人望が厚く、実力も確かな人物です。国王からも強く信頼されていると聞いています。彼に足りないのは貴族諸侯からの支持だけでした。そこで王は考えたのです、自分の気に入った若者に有利な立場を与えるにはどうすれば良いか、彼が信頼に足る人物だと示す方法はないかと。そこで目についたのが、悪徳貴族と呼ばれるあなたでした」
「民衆はもちろん他の貴族からも嫌われている俺をブレスに殺させることで、彼の評価向上を狙ったわけか」
「はい。そして国王の目論見通りブレスは貴族たちからも支持されるようになり、次期国王の候補者となったわけです」
「……しかし、気になるな。どうして国王はそこまでブレスを信頼してるんだ? 要するに、ただの騎士にすぎないブレスを自分の跡継ぎ候補として見ているわけだろ?」
ゲームをプレイしているときは気にしていなかったが、改めて考えるとご都合主義すぎる。国王自ら、ただの騎士を後押しなんて。
「これは私の推測に過ぎませんが、国王は傀儡を求めているのです。国王を退位する年齢になった後も政治の実権を握るために、民衆から強く支持される傀儡に地位を譲り、自分は陰から国を操り続ける――そんなところではないでしょうか」
「ブレスがその傀儡に相応しい人物だったってことか?」
「はい。そして、あなたはその傀儡が支持を得る材料に相応しかったと」
「なるほどな、理解は出来た。納得は出来ないけど」
読んでいただきありがとうございます!
毎日7時10分、19時10分の2回更新予定です。
お見逃しがないよう、ブックマークしていただけると幸いです!




