第27話 リリィルート
「表立って兵を出せば、それは戦争です。そして、反ステイナー派の人間もステイナー領の領民です。実情はどうあれ、ヒリュー領の兵士が戦争を起こしてステイナー領の人間を殺すという構図になります。戦争は混乱を生みます。もちろん私は余計な混乱を望みませんし、それは新たな体制になったヒリュー領も同じことでしょう?」
「反ステイナー派とかいう非合法な集団には、正式な軍事力ではなくて独立した戦力で対抗しなければならないというわけか……」
「そのとおりです。私は覚えていますよ、あなたが私を守って戦ってくださったことを」
「俺がリリィを……? ああ、反ステイナー派の襲撃があったときか」
俺が以前ステイナー家を訪れたときに、反ステイナー派に雇われた暗殺者――【エアマスター】・イリシャに襲われたことがあった。
確かにあの時、俺はリリィを守るために戦った。結局は向こうが勝手に自滅して逃げいったようなものだけれど。
「瀕死の重傷を治してしまうほどの回復魔法を使えるあなたなら、反ステイナー派とも十分戦えるはずです」
「傷を治せるだけじゃ戦いにならないだろう」
「いいえ、それだけではありません。周囲に無能な悪徳貴族と思わせ実力を隠しておく強かさやわずかな期間でヒリュー領の内政を立て直す手腕、そしてあなたを殺そうとした王家をも欺き生き延びる策士ぶり。あなたの優れた能力を、反ステイナー派との戦いに貸していただきたいのです」
「……都合が悪くなっても、俺を王家に売り渡すのはやめてくれよ」
「当然です。ステイナー家を救っていただいた恩人を裏切るような真似はしません」
リリィの蒼い瞳が力強く俺を見つめていた。
目の前のリリィは、暗殺者の襲撃に怯えて何も出来なかったあのときの少女とはまるで別人だった。
ステイナー領の領主として更に成長したということか。
……『ブレス・オブ・ファンタジー』の本来のストーリーならば、今頃リリィは落ちぶれて城下街の路地裏を彷徨っていたはず。他人に怯え自信を失くしたリリィが主人公との交流で立ち直っていく――それがリリィルートの大筋だ。
それなのに、俺の資金援助をきっかけでここまで変わってしまうなんて。
いや――逆に考えれば、今、まさに俺はリリィルートを攻略しているということにならないか?
本来のストーリーとは違うifルートの攻略を。
ミリアルドが生き残った世界における『ブレス・オブ・ファンタジー』の攻略を。
そしてリリィを攻略するルートは、俺が『ブレス・オブ・ファンタジー』でやり残したルートでもある。
……引きこもるのは、if世界に突入したリリィルートを攻略してからでも遅くはない――か。
それに、ヒリュー領が狙われていると知っているにも関わらずメチャムたちに任せて何もしないのは、仕事を俺に丸投げしたまま放置して責任さえも負わせていた会社の上司たちと同じだ。俺はそんな風にはなりたくない。
「これも運命だよな」
「フルスト様?」
リリィが少しだけ首を傾ける。
「いや、こっちの話だ。……リムニ、シャペール。せっかく手に入れた平穏だけど」
俺は二人の方を振り返った。
二人は俺がそうするのを分かっていたかのように頷いた。
「このシャペール、フルスト様のためにどこまでも御供いたしますぞ」
「仕方ないですぅ、私はフルスト様の終身雇用メイドですからぁ」
あれ、いつからリムニって終身雇用になったんだっけ……?
いやまあ、解雇する気も全くないけど。
とにかく話は決まった。
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