第26話 反ステイナー派
「最初に言っておくけど、今の俺はミリアルド・ヒリューじゃない。領主としての地位もなければ権力もない。全部ヒリュー領の行政庁に渡して来たからな。だから、力を貸して欲しいと言われてもそもそも貸せるような力がないわけだ」
「なるほど、どうやら少し誤解があるようですね。フルスト様、私はあなたに『ミリアルド・ヒリュー』として協力して欲しいわけではないのです。そして反ステイナー派を排除するのに協力して欲しいわけでもありません」
「だったらどうして俺をここに呼んだんだ?」
「情報提供です。……先ほどあなたは、領主としての権力をすべて行政庁とやらに渡して来たと仰いましたね?」
「あのまま俺が権力を握っていれば、ヒリュー家の実権は自然と俺を殺した王家のものになる。そんなことになるくらいなら信頼できる部下たちにヒリュー領を治めて欲しかっただけだよ」
「では、そのヒリュー領が反ステイナー派に狙われているとしたら?」
俺は思わず眉を顰めた。
話の辻褄が合っていないような気がしたからだ。
「どうしてヒリュー領が狙われるんだ? 反ステイナー派っていうくらいだから、リリィ、君たちステイナーの一族に敵対する勢力なんだろう? ヒリュー領は関係ないじゃないか」
「あなたが私たちステイナー派に資金援助をしてくださったのをお忘れですか?」
「……!?」
ちょっと待て。
そんなの逆恨みじゃないか。
まるで俺がリリィを援助したせいで反ステイナー派が勢力争いに敗れたみたいな言い方だけど――あれ、実際そうなんだっけ。そうなんだよな。そうだったか。じゃあ恨まれても仕方ない――わけではないけれど、あながち逆恨みとは言えない気もしてきた。
「ステイナー領にある豊富な資源から得られた利益は、その一部を今もヒリュー領へお渡ししています。それが、私たちが受けた資金援助の見返りですから。しかしそうした動きが反ステイナー派の不興を買ったのです。結果として現在、反ステイナー派ではヒリュー領に対して何らかの報復をすべきだという動きが強まっています」
「……それを聞いて、俺に何をしろと?」
椅子に座りなおしながら、俺はリリィに訊いた。
せっかく引きこもり生活を送れるはずだったのにどうやらそう都合よくはいかないらしい。
社会人時代、休日出勤を言い渡されたときとよく似た気分だ。
「ヒリュー領を守るためにも、協力して反ステイナー派を倒しませんか?」
リリィは先ほどまでの微笑を消し、真剣な面持ちでそう言った。
「見返りは?」
「領主を失ったヒリュー領は、一見平和に見えても混乱が生じています。その混乱に乗じてヒリュー領が潰えてしまっては貴方の目論見も外れることになります。私たちステイナー派は反ステイナー派の情報と、それらに対抗するだけの戦力を持っています。それらを提供しましょう」
悪い話じゃない。
リリィたちと利害は一致している。
俺はヒリュー領を守ることが出来て、リリィたちは反ステイナー派の勢力を削ることが出来る。
ウィンウィンの関係だ――俺が引きこもり生活を送れないという点を除けば。
俺はリムニとシャペールを見た。名前を変えてまで俺についてきてくれた二人だ。ここで俺がどんな決断をしても反対はしないだろう。
もちろんヒリュー領は守りたい。金鉱脈からの利益や政治組織の改革をきっかけに、メチャムたちがより良い領地に変えてくれるだろう。それを反ステイナー派の言いがかりで邪魔されるのは癪だ。
だけど、入念に準備をしてようやく得た自由だ。やっとの思いでフルスト・ロウという何のしがらみもない身分を手に入れたのに、ステイナー家のゴタゴタに巻き込まれてしまうのも気が引ける。
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