第25話 密会
カタヨル中佐に馬車に乗せられてやってきたのは、町はずれにある古いホテルだった。
ホテルの中は外見から想像できないほど清潔で、置かれた調度品も質の良さそうなものばかりだった。
「もっとボロボロなホテルかと思いましたけど、意外ときれいなんですねぇ」
リムニが落ち着かない様子で辺りを見回す。
「そうだな。秘密の会合にはぴったりの場所だ。……カタヨル中佐、ここにリリィ様がいらっしゃるのか?」
「その通りだ、フルスト殿。このホテルは代々、ステイナー領の高官をはじめ領主の一族からも利用されてきた由緒ある建物だ」
「そんなところに俺たちを招待して良かったのか? うっかり口を滑らせてこの場所を漏らしてしまうかもしれないが」
「リリィ様はあなた方を信頼しておられる。私は貴殿が何者かなど知りはしないが――反ステイナー派への対抗策となりうるのならば、信頼できると考えている」
「国内情勢はステイナー派が勢力を取り戻したことで安定したと聞いている。そんなに手こずっているのか、反ステイナー派に」
「アリの巣を潰すのはたやすいが、そこから逃げ延びたアリを一匹も残さず潰すとなると簡単ではない。しかもそのアリどもはこちらの隙を狙って噛みついてくるんだ」
「なるほどね……。俺は害虫の駆除業者に転職したつもりはなかったけど」
「この先でリリィ様がお待ちだ」
カタヨル中佐の後に続き長い廊下を歩いていると、そのつきあたりにひときわ豪奢な作りの扉があった。まさにVIPルームといった雰囲気だ。
ドアの前には若い兵士が一人立っていて、カタヨル中佐に気づくと機敏な動きで敬礼をした。
「ごくろう。リリィ様は?」
「はっ! 中でお待ちであります!」
「……というわけだ、フルスト殿。私は部屋の外で待つよう言われている。さあ、中へ。お連れの方々も」
カタヨル中佐が目くばせし、若い兵士がドアを開ける。
豪華絢爛なテーブルや椅子が配置された室内の奥の方、そこには銀髪の少女が座っていた。
少女――リリィは俺と目を合わせると、上品に微笑んだ。
「ステイナー領はいかがですか、フルストさん。いえ、ミリアルド様とお呼びすべきでしょうか?」
俺は焦ってカタヨル中佐の方を振り返った。既にドアは閉められている。どうやら俺の本名は聞かれなかったらしい。
「よしてくれ、リリィ・ステイナー。今の俺はフルスト・ロウ。ミリアルド・ヒリューという男は既に死んでいる」
「ではフルスト様とお呼びしましょう」
「様、というのもやめてくれ。俺は一般庶民なんだ。君が用意してくれた戸籍上もそうなっている」
「……私に偽の戸籍を用意させたのは自らの死を偽装するためだったのですね。愚かな悪徳領主というのは、自分の能力を隠すための仮の姿というわけですか」
「買い被りすぎた。もちろん、俺の要求にこたえてくれたリリィには感謝している」
「いいえ、これでもまだ足りないくらいです。あなたはステイナー領を救ってくださっただけでなく私の命さえも助けてくれた恩人なのですから」
リリィは微笑みを浮かべたまま言った。見る者を一目で虜にしてしまうような魅力的な笑みだ。設定資料集の二次元絵でもここまでじゃなかった。
「……いきなり軍人を寄越して強引に連れ出すのは、恩人に対するやり方ではないと思うが?」
「ご無礼は謝罪いたしますわ。目立たず、確実にあなたをここまでお連れしたかったのです。信頼できる人物に護送させたつもりですのよ」
「あの、カタヨルとかいう中佐か?」
「彼はステイナー派が劣勢になり軍部が混乱しても、一貫して私たちの味方となってくれた信頼できる方です。再び軍部をステイナー派一色に染め上げたのも彼の手腕です。ステイナー軍の中で最も信用できる存在ですわ」
「そうか……まあ、大体分かった。本題に入ってくれ。反ステイナー派に対抗するために俺をここへ呼んだと聞いている」
「その通りです。……フルスト様の後ろに控えてらっしゃるのはヒリュー家に仕えていらしたお二人ですね?」
「な――知ってるんですかぁ、私たちのこと」
リムニが驚いたような声を上げる。リリィは微笑んだまま頷いた。
「当然です。ミーアさんもキャンベルさんも以前、私のお屋敷に来られたじゃないですか。初めましてというわけではないのですから、遠慮せずおかけになってください」
「…………」
リリィに促され、俺たちはそれぞれ席に座った。
あまり広くない室内にはリリィしかおらず、部屋には窓一つ無かった。完全に密会用のスペースというわけだ。
読んでいただきありがとうございます!
毎日7時10分、19時10分の2回更新予定です。
お見逃しがないよう、ブックマークしていただけると幸いです!




