第23話 ミリアルドは走らない
「ミリアルド様――よくご無事で! 貴方様は分かっておられたのですね。今日、王家からの刺客がやってくると。そのために私から武術をお習いになった。いえ、それだけではありません。内政の改革やステイナー家との外交も、そのためだったのですな」
キャンベルはすべてを理解したようなまなざしを俺に向けた。
まあ、今更隠していても仕方ないよな。
「ああ、実はそうなんだ。結果的に騙すようなことになって悪かった」
「このキャンベルはヒリュー家――いえ、ミリアルド様に命をお預けする覚悟でございます。盾になれと言われれば喜んでそういたします。今後は何卒、おひとりで問題を抱え込まれませんよう。微力ながらも協力は惜しみませぬ」
「ありがとう、キャンベル。ところで王国から来たあの二人は?」
「あの賊どもは既に我らが領地を去った後でございます。国王と言えど他人の領地に土足で踏み込み、挙句領主を暗殺などと――許せませんな」
「落ち着いてくれよ。とにかく彼らはもういないんだな? もちろん、俺のことも死んだと思ってるよな」
「ええ、その通りでございます」
「だったら――ある意味で予定通りか」
「予定……? 一体なんのことでございましょう?」
「ああ、実は今日の襲撃を乗り切ることが出来た後についても計画があるんだ。二人とも、聞いてくれるか――」
その時だった。
突如として大勢の足音が近づいて来たかと思えば、大人数の兵士たちが大広間に駆け込んできた。
敵襲かと思って身構えたが、兵士たちの先頭に立っているのがメチャムであることに気づき警戒を解いた。
「我が君ッ! ご無事ですかッ!」
「メチャムか。君の方こそどうしたんだ?」
「お、おお……さすが我が君、冷静なご対応――ではなく! 王家から刺客が差し向けられたとの情報を掴み、急ぎ駆け付けた次第でございます!」
メチャムは珍しく甲冑を着こんでいた。転んだらどこまでも転がっていきそうだな、と思った。
「そうか、ありがとう。でももうカタはついたんだ。わざわざご苦労だったな」
「い、いえ! ありがたきお言葉でございます! し、しかし―――我が君、もう一つお尋ねが! よろしいでしょうか!?」
「どうした?」
「我が君がお渡しになったこの命令書、一体どういう意味ですか!? 『ヒリュー家当主、ミリアルド・ヒリューはヒリュー領に関する権利の一切を『ヒリュー領行政庁』に譲渡する。『行政庁』の長官にはメチャム・チャーを任命し、ヒリュー領の統治は従来の領主による統治から民衆による統治へと移行させることとする』――?」
「ああ、そのことか。ちょうどみんな集まっているからちょうど良い。ここで宣言しておくよ。俺はヒリュー領の領主を辞める」
「「「え……ええーっ!!?」」」
その場の全員が一斉に驚きの声を上げた。
こうなるのも予想はしていたけど。
「今後のことはすべてメチャムと行政庁に任せるよ」
「し、しかし、我が君はどうされるのです?」
「一応、ツテはあるんだ。安心してくれ」
周囲が混乱でざわついている中、ミーアが俺の脇の辺りを肘でつついた。
「あのぉ、ミリアルド様。こんなときに言うのもなんですけどぉ……」
「なんだ、どうした?」
「なんで全裸なんですかぁ……?」
嘘だろと思って体を見下ろすと、確かに何も着ていなかった。回復魔法は着ていた服まで再生してくれるわけじゃないから当たり前と言えば当たり前か。
フッ、と俺の口から間抜けな笑い声が漏れ、そして―――。
俺は赤面した。
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