第2話 傲慢な悪役貴族
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目が覚めると、明かりの灯った部屋の中だった。
大きな窓からは眩しい光が燦燦と差し込んでいる。
数日ぶりに見る太陽光に思わず顔を顰めながら、俺は体を起こした。
俺が寝ていたのは一人分にしては大きすぎるほどのベッドだった。天蓋までついている。
まるで貴族みたいだなと思いながら、先ほどまで感じていた息苦しさが無くなっていることに気が付いた。
一体どういうことなんだ? そしてここはどこなんだ? 病院――にしては装飾に凝り過ぎている気がする。病院なら、こんな中世風のデザインにする必要はないはずだ。
ベッドから立ち上がり窓の外を見る。
手入れの行き届いた植木が並ぶ広大な庭園が広がっていた。そしてその向こうにはのどかな田園風景が。
日本――ではないな、絶対。こんな場所、人生で初めて来た。
しかしなぜか見覚えがあった。一体どこで見たんだろう。
カーペットが敷き詰められた広い部屋を見渡すと、隅の方に鏡が置かれているのに気が付いた。
何気なく近寄って、思わず息を呑む。
「なん……だと……!?」
鏡に映った自分の姿に、俺はおもわず呟いていた。
黒い髪と濃い隈の出来た目。そして青白い肌。
寝間着姿の間抜けな外見は間違いなく、悪徳貴族「ミリアルド・ヒリュー」のものだった。
「どうして俺がミリアルドに……!?」
顔を触ると、鏡の中のミリアルドも顔を触った。
いったい何が起こったんだ……!?
まさかこれは――転生したら悪役貴族だった件、なのか!?
いやそんな非現実的なことが起こるはずは……!
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「し、失礼しますぅ! ミリアルド様、お召し物をお持ちしましたぁ」
女の子の声だ。咄嗟に俺は、ミリアルドの屋敷にいたモブキャラのメイドたちを思い出した。きっとあの中の一人だろう。
「は……入ってくれ」
俺が言うとドアが開き、クラシカルなメイド服を着た少女がたどたどしい様子で入って来た。
「おっ、お着替えを……ミリアルド様ぁ」
現実ではありえないピンクのロングヘアに白いカチューシャ。カラコンを入れたようにキラキラした瞳は落ち着きなく左右に動いている。そして特筆すべきはボタンがはちきれんばかりの胸だった。
こ、これは――重力を無視してるんじゃないのか――!?
「みっ、ミリアルド様っ! 何かご機嫌に触りましたでしょうかぁ……!?」
緊張した様子でメイド少女が俺に言う。
「あ、ああ……着替えならその辺に置いておいて」
「はぃぃ……」
少女はびくびくと俺の顔色をうかがいながら、ゲームの中でミリアルドが着ていた衣装をテーブルの上に置いた。
「あ、あの、質問なんだけど」
「ひぃぃっ!? な、なんでございますですかっ!?」
メイド少女が悲鳴にも近い声で言う。
「今は何年の何月なんだ?」
「な、何年……!? ええと、王歴179年の6の月ですが……」
6の月か。
確か主人公がミリアルドを倒すのが王歴179年の7の月。つまり今は『ブレス・オブ・ファンタジー』の本編が始まるひと月ほど前ってことか。
「分かった。ありがとう」
「あっ、ありがとう!?」
メイドの少女は目を丸くする。
「……俺はただお礼を言っただけだけど?」
「あ、い、いえっ、失礼しました! ミリアルド様が他人に感謝するなんて珍し――ああ、いえいえ、なんでもありませんっ!」
お礼を言うだけで珍しがられるなんて、ミリアルドはよほど傲慢だったに違いない。確かにゲーム中もミリアルドの偉そうな言動はプレイしていてムカつくくらいだったけど。




