第19話 決戦前夜
「あのぉ……ミリアルド様」
ミーアがおずおずと俺の名を呼ぶ。
「どうした?」
「私も不思議なんですぅ。お屋敷のメイドさんや執事たちにも長いお休みを出されていますよね?」
「日頃の感謝の気持ちだよ。聞けば、お屋敷の人たちはみんな働きづめでロクに休めていないらしいじゃないか。完全週休二日制で長期休業アリなホワイト職場を目指しても――」
「な、何の話ですかぁ? ほ、ほわ?」
「あ……いやこっちの話」
俺はかつてのサービス残業と休日出勤の連続だった日々を思い出して眩暈がした。二度と社会人にはならないぞ、俺は。
「それだけじゃないですよぉ。お家が無い人たちのために、屋敷の外に寮まで作られたじゃないですかぁ。本当にどうしちゃったんですか、ミリアルド様? 前までは少しでも仕事に手を抜いたメイドはクビにして、しかもお金がかかるからって代わりの人も雇わなかったじゃないですかぁ」
「……色々あるんだよ、色々」
「それに、私たちに秘密でローキ砲? とかいう武器を作られているって話も聞きますよぉ?」
「あ、労働基準法を略して労基法ね。別に大砲とかじゃないから安心しろよ。とりあえず、俺が生きてるうちにルールは作っておこうと思ってさ」
「やはりミリアルド様は名君になられる素質をお持ちだったのです! このキャンベル、嬉しゅうございます! うっ、いけませんな歳を取ると涙腺が緩く……」
キャンベルが目頭を押さえる。
「ああそうだ、ミーアとキャンベルにも伝えておかなきゃな」
「なんですかぁ?」
ミーアがピンクの髪を揺らす。
「二人とも休みを取ってくれ。命令だ」
「は――!? や、休みでございますか!? このキャンベルに!?」
「休暇が明けたあとのことは文書で伝えるよ。命令書を書いておく」
「で、でもぉ、ミリアルド様はどうするんですかぁ? お屋敷におひとりになっちゃいますよぉ!?」
「問題ない。元々一人暮らしだし」
「え? 一人暮らし?」
ミーアが首を傾げる。
「あ、いや、何でもない。とにかく二人には感謝してる。俺は一人でも大丈夫だから。ほら、二人が鍛えてくれたし」
「し、しかしですなミリアルド様。このキャンベルはヒリュー家にお仕えすることが人生なのです。休暇と言われましても」
「最近お孫さんが生まれたらしいね、キャンベル」
「……!? な、なぜそれを」
俺は『ブレス・オブ・ファンタジー』の設定資料集にあるキャンベルのページを思い出しながら言った。
「今すぐにでも孫の顔が見たいんじゃないか。キャンベルは俺のためによく働いてくれた。武術の稽古だってそうだ。少しは休んで、やりたいことをやってくれ」
「み、ミリアルド様……!」
「どちらにせよこれは命令だ。二人とも休んでくれ。そして今日から数日、決して屋敷には立ち入るな」
「どうしてですかぁ?」
「理由は聞かないでくれ。これも命令だ」
二人は顔を見合わせ、そして渋々といったふうに頷いた。
これでいいんだ。
これで――犠牲になるのは俺一人で済むはずだ。
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