第18話 回復魔法の応用
「勝てたのは偶然だよ。もう一度やったら分からない」
「いえ、実力差です。あなたは既にわたくしめを超えられたのです。……しかし一体何をなされたのです?」
「何って?」
「手合わせをしていて妙な感覚だったのです。まるで体力の尽きない化け物と戦っているような――」
「ああ、そのことか。実は回復魔法の応用なんだ」
俺はミーアの方を見た。ミーアが首を傾げる。
「私、何かしましたかぁ?」
「魔法にはそれを唱えるための基本となる体勢――いわば『型』があるだろう? 言い換えるなら発動条件だ。本来ならば特定の体勢で決まった言葉を唱えることが発動条件なんだけど、それを少し変えてみた」
「そ、そんなことができるんですかぁ!?」
「やってみたら意外と簡単にね。で、その発動条件っていうのが『俺の体が正常でなくなること』。たとえば怪我をしたり、疲れたりしたときだね。それを条件に、自動で魔法が発動するようにしたんだ」
「なるほど。疲れた瞬間に回復していたからこそ、疲れないまま永遠に剣を打ち合うことができたということですな」
「少しずつ練習していたんだけど、ようやく形になったかな」
間に合った――と言ってもいい。
『ブレス・オブ・ファンタジー』本編開始まであと数日。つまりミリアルドの死まであと数日に迫った今になってようやく、キャンベルから習っていた武術とミーアから教わっていた回復魔法がそれなりのスキルとして身について来た。
「我が君!」
そんな呼び声とともに、小太りの男が駆けてきた。メチャムだ。
「ああ、メチャム。どうしたんだ、君は執務室にいるはずだろ?」
「例の件について進展がありましたので急ぎご報告をと思ったのです。お耳を」
俺がメチャムの方に耳を傾けると、彼は小声で話し始めた。
「ステイナー領は完全にステイナー派が掌握したとのことです。反ステイナー派は逐次追放されていく見通しです」
「そうか。リリィがやったんだな?」
「はい。我々の目論見は成功です。金脈からの利益も約束通り順次我々の元に。これでヒリュー家の領地の収支も大幅に黒字化いたします。増収分はいかがしましょう?」
「そうか――じゃあ、減税だな」
「やはり宴会場の増築―――は、げ、減税でございますか!?」
メチャムが信じられないようなものを見る目を俺に向けた。
「当然だろう。新たな収入源が見つかったのなら、その分領民の負担を下げてもいいじゃないか」
「は、はあ……いえ、もちろん私は賛成ですが、いかがされたのです?」
「領民がいてこその領地だからね。負担が減れば余裕が出る。余裕が出れば消費も増える。結果として、国民の消費生活に掛かる税収も増える。そうすれば領民に負担なく領地経営が出来る。そういう循環を作りたい」
「ご――ご立派なお考えです、我が君! このメチャム、肝に銘じます!」
「それと、あの計画の進捗はどうかな?」
「は、はい! 行政組織の移管は8割ほど進んでいます。このお屋敷に残っているのは執政官の私と、部下の数名のみです。後はすべて新たな建物へと」
「この短期間でよくやってくれた。もちろん誰にも気づかれずに?」
「ええ。社屋の建設からすべて極秘のプロジェクトですから。しかしなぜ今、統治機構の移設などを?」
「……俺の屋敷はあくまでも屋敷。政治を行う組織はそれに適した場所で仕事をするのが良いと思ってさ。この屋敷はパーティを開くのには向いていてもこの領地をどう治めるか議論するには向いていないだろ? それに、メチャムみたいな優秀な人材には働きやすい環境で仕事をしてもらいたい」
「お――おお! それでこそ我が君でございます! お心に深く感謝いたします!」
深々と頭を下げるメチャム。
「ああ、そうだ。これをメチャムに渡しておこうと思ったんだ」
俺は懐から便箋を取り出し、メチャムに差し出した。不思議な顔をしながら、メチャムはそれを受け取った。
「こ、これは……?」
「命令書だ。便箋の表紙に書かれている日時になったら開けてくれ」
「ご命令ですか……? このような方法を取らずとも、お申し付けくださればどのようなことでも致しますものを」
「いや、その日時だからこそ意味があるんだ。それまでは開けないでくれよ。命令だ」
「はっ! 承知いたしました! では、執務に戻ります」
メチャムはそう言い残し、来た時と同じように小太りの体を揺らしながら駆けて行った。
こっちの方も大丈夫だな。……運命の日まであと数日、だもんな。
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