第16話 【エアマスター】
「周囲に音が聞こえていない理由も分かったな。圧縮し高密度化させた空気でこの部屋を覆い、隣室と遮断したってことか」
「その通り。思ったより頭がキレるようね、ミリアルド・ヒリュー。でもそれが分かったからといってどうしようもないでしょう? 助けを呼んでも無駄だという状況は変わらないわ」
「何が狙いだ? 誰に雇われた?」
「あなたの背後にいるお嬢様よ。反ステイナー家の連中から頼まれたの。邪魔な女を殺してくれって。あなたとお嬢様が二人きりになってくれて助かったわ。暗殺に都合が良いもの。もちろん、大勢いた役人たちも一緒に皆殺しにしても良かったのだけれど」
「……!」
リリィは気丈な表情を浮かべイリシャを睨みつけていたが、俺の背に触れる手は微かに震えていた。
そりゃ怖いよな。俺だって怖い。
いくら俺に強力な回復魔法があるからといって、イリシャの攻撃を何度も受け続けていればいずれ魔力が切れてしまう。そうなると、言うまでもなく死んでしまうわけだ。
ストーリー通りなら俺もリリィもここで死ぬことはないはずだが、今回ばかりは誰かが都合よく助けに来てくれそうな気配もない。
どうにか自分の力で生き延びる方法を見つけなければとは思うものの、相手が悪すぎる。
イリシャは本来、『ブレス・オブ・ファンタジー』において中盤以降に登場する敵だ。
強力な風魔法は手ごわく、ゲームをプレイしていたときもかなり苦戦した。間違ってもミリアルド程度のキャラが立ち向かえるような相手じゃない。
どうする――どうすればいい――何か弱点はないのか?
「さあ、死になさいミリアルド。そしてリリィ・ステイナー」
イリシャは俺たちをいたぶるようにゆっくりと近づいてくる。
このままだと殺される――!
そのとき不意に、俺の脳裏に『ブレス・オブ・ファンタジー』の設定資料集に記された言葉が思い浮かんだ。
「ハート柄のパンツだ……!」
「!!?」
イリシャが足を止める。
その表情を真正面から見据えながら、俺はゆっくりと立ち上がった。
「お前が履いているのは、幼児が履くようなハート柄のパンツだ!」
「なっ、ななななんで知っているのっっ!!?」
ショートパンツの裾を両手で押さえながら、イリシャが超スピードで後ずさる。
「そしてさらに、お前は胸の発達が遅いことに悩んでいるッ!」
「ち、ちが、成長途中なのよ! まだまだ大きくなる予定なのっ!」
片手で両胸を、もう片方の手でショートパンツを隠すようにするイリシャ。
どうやら図星のようだ。
イリシャはハート柄の幼児用パンツを愛用する貧乳がコンプレックスな少女――『ブレス・オブ・ファンタジー』の設定資料集にはそう書かれていた。そして、その一文はさらにコアなイリシャのファンを生み出す結果になったのだった。
俺は目の端でイリシャの胸元を追った。まるで地平線のような平面を描く彼女の胸元を、熱心なロリコ……いや、イリシャファンはこう呼んだ―――【(胸囲が)エアマスター】と。
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