第15話 暗殺者
「た――ただの『ヒアル』であれだけの傷を治したのですか?」
「このくらいなら簡単にできるさ。ミリアルドは回復魔法が得意って設定だからな」
「設定?」
「あ、いや、何でもない。こっちの話だ」
リリィの前で冷静を保っているフリをしていても、俺の心臓は早鐘を打っていた。
マジで死ぬかと思った。っていうか普通なら死ぬだろ、あんなに血が出ているんだから。回復魔法、練習していて良かった!
「とにかく人を呼んできます。安静にしていてください、ミリアルド様」
「いや、待ってくれ。この状況――妙だ」
「妙? ええ、確かに突然窓ガラスが割れて、ミリアルド様が大怪我を――」
「いや、違う。それだけじゃあない」
「え?」
俺は大きく割れた窓ガラスを見上げた。
「どうしてあれだけ派手にガラスが割れているのに、誰も気が付かないんだ?」
「!?」
ガラスは無音で割れたわけじゃない。かなりの音がしていたはずだ。それなのに、ステイナー家の役人はもちろん、夜の森の中で俺を見つけ出すほどの能力を持ったキャンベルでさえもそれに気が付いていないようだ。
「本来なら誰かがこの部屋へ様子を見に来ていてもおかしくないはずだ。それなのにそうならないということは――何か理由があるってことだ。その理由が分からないうちは、下手に動かない方が良い」
「しかしこれは――明らかに何者かからの攻撃です。私たちだけでは何も」
「俺を襲ったのは目に見えない刃物のようなものだ。動いた瞬間、また身体が切り刻まれる可能性だってある」
「では、動かずに声を上げて助けを呼べば」
「ガラスの音にも気づかないのに、声だけが届くとは思えない。何かがおかしいんだ、この状況は」
見えない刃。鳴らない音。
何かがおかしい。
俺の頬を冷たい汗が伝って行った。
窓ガラスが割れた、ということは部屋の外からの攻撃だ。
そして二度目の攻撃が来ないということは――あの見えない刃を出すにはそれなりの時間がかかるってことか?
いや、あるいは――!
「案外落ち着いているのね、ミリアルド・ヒリュー。もっと愚鈍な男かと思っていたのだけれど」
氷のように冷たい声音が室内に響いた。
そこには、広い窓ガラスを背にして、黒いローブを羽織った少女が立っていた。
ローブの下は体に密着するようなショートパンツにノースリーブの上着を身につけていて、彼女の華奢さを強調しているようだった。
「お前は――」
言いかけて思い出す。
この少女――というかキャラ、見たことがある。
「お前は、【エアマスター】イリシャ・ディール!」
「……! 驚いたわ。私の名前を知っているの?」
ローブの少女――イリシャが眉を顰める。
このイリシャ・ディールという少女は『ブレス・オブ・ファンタジー』で主人公を狙う暗殺者で、何度か戦闘をするイベントがある。
イリシャの細身でロリっぽい外見と凄腕の暗殺者というギャップからコアなファンが多いという噂だ。
「もちろん知っているさ。お前の能力もな」
「へえ。さっきの攻撃を防がれたのもそのせいかしら」
「……どうだろうな」
「まあ、どっちでもいいわ。どうせあなたたちはここで死ぬんだから。私の能力を知っているのなら、その恐ろしさも分かっているはずよね!」
イリシャが右手を振った瞬間、一陣の風が吹いたような気がした。
俺はリリィを抱きかかえるようにしてその場から飛びのいた。
直後、俺たちがさっきまでいた場所の床が、刃物で切り裂かれたようにズタズタになった。
「見えない刃――圧縮した空気か」
「ご名答。私は風魔法を得意としているの。空気を変幻自在に操る戦闘スタイルからつけられた異名が【エアマスター】よ」
「……自分で異名とか言っちゃって恥ずかしくないのか?」
「う、うるさいわね。別に恥ずかしくないわよ!」
少し頬を赤らめたイリシャが俺を睨む。
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