第12話 ステイナー領
「しょせん相手は烏合の衆というわけか。それで?」
「ステイナー領の金鉱脈については密かに調査を進めておりました。我々の調べでは、彼の地における金の埋蔵量はまだ底を知りません。この援助を機にステイナー家と強固な関係を結ぶことが出来れば、ヒリュー領に将来的な財をもたらすことは間違いないでしょう」
「恩を売っておくというわけだな」
「その通りでございます」
「援助の財源は?」
「はっ、申し上げづらくはありますが……ミリアルド様が先日まで日夜開かれておりました外交パーティにかかる費用に余剰が出ておりますゆえ、そちらを充てさせていただければと」
確かに、俺がミリアルドになってからパーティの類は一切開いていない。
それにかかる資金が浮いていても不思議じゃない。
自分の命が危ないってときにパーティなんかやってる場合じゃないしな。
「分かった。君の言う通りにしよう、メチャム。ステイナー家に資金援助を申し入れてくれ」
「はっ! あ、ありがたきお言葉!」
「いや、感謝するのは俺の方だよ。君の手腕には助けられている。俺は政治なんて素人だから」
「は……!?」
豆鉄砲を食らった鳩のように茫然とするメチャム。
普段から思っていることを素直に伝えたつもりだったけれど、あまりにもミリアルドらしくない台詞だったかもしれない。
「あ……ま、まあ、その、今後も頼む。ステイナー家のこともな」
「お、お任せください! このメチャム、誠心誠意、ミリアルド様にお仕えいたします!」
メチャムは激しく感動したようだった。目の輝きが、俺の自室に入って来た時は全然違っている。
それからメチャムは恭しく頭を下げ、俺の部屋から出ていこうとした。
そのときふと思いついたことがあって、俺はメチャムを呼び止めていた。
「メチャム、一つ頼み事があるんだけど」
「なんでございましょう?」
「ステイナー家に資金援助をする際のことだけどさ――」
◇◆◇◆
ステイナー領には金鉱脈で働く労働者や金品を目当てにした商人たちが数多く集まっていて、特に市場が集中しているステイナー城下街は異様な活気に包まれていた。
ごった返す人々を客車の窓から眺めながら、俺は城下街を馬車で通り抜けていた。
「……本気ですか、ミリアルド様」
俺の向かい側に座るメチャムが、顔中に汗をかきながら言う。
「本気だよ」
「本気で――資金援助の調印の場にご出席を?」
「向こうの領主からの要請だろう? こっちも領主が出席するのがスジってものじゃないのか」
「そ、それはそうですが、今までそのようなことは――」
動揺するメチャムを前に、俺の隣でキャンベルが咳払いをする。
「ミリアルド様は日々ご成長なさっておられるのです。ご覧になられよ、メチャム殿。ミリアルド様の上腕二頭筋を」
「いやまあ、確かに鍛えてはいるけどさ。見て分かるほどパンパンになってるわけじゃないから」
「そうでしょうか? このキャンベルの目には日々の鍛錬で更に磨かれたミリアルド様の肉体がありありと浮かんでおりますぞ」
どんな目だよ。老眼もここまで来ると大したもんだよな。一回病院行った方が良いと思う。
まあ――確かに鍛えてはいるけど。
最近鏡の前で、『あれ、俺腹筋割れてきてね?』とか見ちゃったりしてるけど。
「しかしどうして突然、調印式に出席などと……」
「だからさっきも言っただろ。向こうも領主であるリリィ・ステイナーが出て来るんだから、こっちも格を合わせとかないとさ」
「ご、ご立派な心掛けでございます、ミリアルド様! 以前ならば絶対に式典など出席されなかったのに……!」
メチャムが俺に尊敬の眼差しを向ける。
中年小太りのおっさんにそんな目をされても、あんまり嬉しくはないんだけど……罵倒の嵐だった社会人時代を思えば褒められて悪い気はしない。ていうかやっぱり嬉しい。
「ふへへへ」
「な、なんかミリアルド様が気持ち悪い声出してる!? やっぱりおかしくなっちゃってたんだ……」
メチャムの隣に座っていたミーアがおぞましいものを見るような表情を俺に向ける。
『やっぱり』おかしくなっちゃてたってどういう意味だよ。『やっぱり』って。
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