第11話 ステイナー家
◇◆◇◆
ミーアやキャンベルと鍛錬を始めて数日が経ったある日のこと。
政務官のメチャムが俺の部屋にやって来た。
「ミリアルド様、ご相談が」
メチャムは小太りの中年で、ヒリュー家領の統治を取り仕切っている男だ。確かゲーム本編では、税収が下がったことに腹を立てたミリアルドに逆恨みされ処刑されてしまう可哀そうな役回りだった。
民衆から税金を搾り取り自分が贅沢をすることしか考えていないミリアルドに代わって政治を一手に担っているのはこのメチャムなのだから、実際のところかなり優秀な人物なのだろう。でなければヒリュー領はとっくの昔に財政破綻しているはずだ。
そんなメチャムは、汗ばんだ手をせわしなく動かし、落ち着かない様子で手元の書類を捲った。
「珍しいな、俺に相談なんて」
「え、ええ。ミリアルド様のお耳に入れておくべき案件かと思いまして。実は、ステイナー家から資金援助の要請が届いているのです」
「ステイナー家?」
聞き覚えのある名前だった。
同時に、銀髪の令嬢のイラストが脳裏を過った。
「リリィ・ステイナーか」
俺は思わず呟いていた。
メチャムが深く頷く。
「ええ、そうです。ステイナー家の当主、リリィ様からです」
リリィ・ステイナー。
俺の推しヒロインにして、この世界にやってくる直前、『ブレス・オブ・ファンタジー』の五週目をプレイしていた俺が攻略しようとしていたヒロインこそ、このリリィ・ステイナーだった。
ゲーム本編で、リリィは部下たちの裏切りが原因で領地経営に失敗し、追放されて路頭を彷徨っていたところを主人公に救われることになる。リリィに出会うイベントを発生させるタイミングが結構シビアなんだよな。
「……ステイナー家ということは、金鉱脈の関係だな?」
俺が言うと、メチャムは少し驚いたような顔をした。
「その通りです。よ、よくご存じで……」
ステイナー家の領地には金鉱脈があり、ゲーム中盤の隠しイベントで主人公たちが訪れることになる。そこで入手できるアイテムはどれも高値で売ることができ、『ブレス・オブ・ファンタジー』のプレイヤーたちの間では中盤の金策として有名だ。
「このヒリュー家に、他の貴族を援助する余裕はない」
「そ、そうでございましょう。では、その旨の返答を準備いたします」
「――と言いたいところだけれど、君の意見を聞きたいな、メチャム。ヒリュー家領地の経営は基本的に君に任せきりにしているが、そんな君が俺に意見を求めるということは、何か判断に困る要因があるということだろう?」
メチャムは焦ったように額の汗を拭った。
「お、おっしゃる通りです。ですが……」
「率直な意見を聞かせてくれ。発言内容を咎めるつもりはない」
「そうですか……では、正直に申し上げます。私個人としましては、ステイナー家を援助すべきかと考えます」
「理由は?」
「ミリアルド様もおっしゃった通り、金鉱脈の関係です。ステイナー家の領地経営は現在危機的な状況にありますが、それは金鉱脈関係の利権をめぐり領内で争いが起こっているからです。そしてリリィ様がそれを制御できていないためです」
「我々の資金援助で、領主であるリリィが利権争いを制すると?」
「は、はい。畏れながら申し上げますと、私の見立てではリリィ様の派閥が劣勢になっているのは一時的なもの。資金さえあればリリィ派が勢力を取り戻すのも容易いことでしょう」
「なるほどな。良かったらその根拠を教えてくれ」
「反リリィ・ステイナーを掲げる諸派はそれぞれ、ステイナー領の金脈利権を狙った貴族たちの援助を受けています。この貴族たちの間は、早くもリリィ・ステイナーを排除した後の利権関係で揉めているとの情報を掴んでおります。リリィ様が優勢になれば、対抗する諸派の結束は呆気なく崩れるでしょう」
リリィを追放した後のステイナー領は、金鉱脈の利権争いで戦火の絶えない土地になってしまう。本編をプレイした俺の記憶と照らし合わせても、メチャムの見立ては正しい。
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