『「寄生虫」とSランクパーティを追放された俺、実は【恩恵(ギフト)】で彼らを「最強」にしていただけなんだが ~「契約解除」して能力を回収したら、配信中にゴブリンにボコられ始めた件~』
「君はクビだ」 配信中に追放された荷物持ちの主人公。 でも、彼らの強さは全て主人公のスキルのおかげでした。
【第一章:100万人の前での処刑】
『同接120万人突破! みんなありがとう! これから伝説の「深層ボス」に挑むよ!』
ダンジョン探索配信アプリ『D-Live』。 そのランキング1位を独走するSランクパーティ**『アーク・ブレイブ』**の配信画面は、熱狂に包まれていた。
カメラに映っているのは、金髪の美青年・勇者ハヤト。 そして、その脇を固める聖女、魔術師、重戦士。 彼らは今、国内最難関と言われる『黒竜の迷宮』の最深部手前に到達していた。
『ハヤト君かっこいい!』 『さすが人類最強パーティ!』 『黒竜なんてワンパンだろw』
滝のように流れる称賛のコメント。 ハヤトはカメラに向かって爽やかな笑顔を振りまき、そして――ふと、真顔になって背後を振り返った。
そこには、巨大な荷物を背負った地味な黒髪の青年が立っていた。 俺、**カナタ(22歳)**だ。
「……えー、ボス戦の前に、リスナーのみんなに重大発表があります」
ハヤトが深刻そうな顔を作る。
「僕たち『アーク・ブレイブ』は、この階層を最後に、荷物持ちのカナタ君をパーティから追放します」
その瞬間、コメント欄が爆発した。
『は?』 『今ここで?』 『ざまぁwww』 『前から邪魔だと思ってたわ』 『寄生虫乙』
俺は無表情のまま、ハヤトを見つめた。 事前に相談などない。完全なサプライズ、いや、公開処刑だ。
「……理由を聞いても?」 「君も薄々気づいていただろう? 君の実力が僕たちに追いついていないことに」
ハヤトは哀れむような目を向けた。
「僕たちは選ばれた才能を持つSランクだ。でも君は、レベルも低いし、固有スキルも戦闘用じゃない。正直、足手まといなんだよ」
「そうね。カナタがいると配信の『絵面』が地味になるのよねぇ」
魔法使いの女が、厚化粧を直しながら嘲笑う。 聖女もクスクスと笑っている。
「報酬は山分けって約束だったけど、君は何もしてないからナシね。ここまで連れてきてあげた『経験』が報酬ってことで」
理不尽。 あまりにも身勝手な言い分。 だが、俺の心は驚くほど凪いでいた。
(……ああ、やっぱりか)
彼らは勘違いしている。 自分たちが強いのは、自分たちの才能だと思っている。 俺が後ろから、必死に「支援」をかけ続けていたことなど、露ほども気づいていない。
「……本気か? 俺がいなくなったら、ここから帰るのも難しいぞ」
俺は最後の情けで忠告した。 ここは深層だ。雑魚モンスターですらAランク相当。俺のバフなしでは、彼らは「ただの一般人」より少しマシな程度でしかない。
「ハッ! 負け惜しみは見苦しいよカナタ君!」 「寄生虫が偉そうに! 消えろ!」 「ソロで野垂れ死ね!」
ハヤトたちが罵倒し、コメント欄も『帰れ』コールで埋め尽くされる。 100万人からの悪意。 普通なら心が折れる場面だろう。
だが、俺は静かにスマホを取り出し、自分の「ステータス画面」を開いた。 そこには、彼らが決して見ることのできない、俺だけの**「管理画面」**が表示されている。
【固有スキル:恩恵貸与】 【貸出先:勇者ハヤト、聖女、魔術師、重戦士】 【貸出内容:全ステータス100倍補正、スキル威力100倍補正、自動回復、幸運補正……】
そう。 彼らの強さは、全て俺が「貸していた」ものだ。 俺自身のステータスを削り、彼らに上乗せしていただけの、虚構の強さ。
「……分かった。パーティを抜けるよ」
俺は頷いた。
「ただし、契約は契約だ。俺が提供していた『サービス』は、全て停止させてもらう」
「は? 何言ってんだコイツ」 「サービスぅ? 荷物持ちのサービスなんていらねーよw」
ハヤトたちが鼻で笑う。 俺は管理画面の**【契約解除(解約)】**ボタンに指をかけた。
「今までご苦労さん。……精々、現実の重さに潰されないようにな」
ポチッ。
俺はボタンを押した。 【システム:契約解除を確認。貸与していた全ステータスを回収します】 【ボーナス:違約金として、対象の基礎ステータス及びスキル経験値を徴収します】
シュゥゥゥ……。 目には見えないが、ハヤトたちの体から「黄金のオーラ」が抜け出し、俺の体へと還っていく感覚があった。 体が軽くなる。力が満ちてくる。 逆に、ハヤトたちの顔色が、スッ……と悪くなった気がした。
「? なんだ、急に体が重く……」 「気のせいでしょ。寄生虫がいなくなってスッキリしたのよ」
彼らはまだ気づいていない。 自分たちが裸の王様になったことに。
「じゃあな。配信、楽しみにしてるよ」
俺は荷物をその場に置き、転移スクロール(自腹)を使ってその場を去った。 これから始まる「地獄のショー」を、安全圏から見物するために。
【第二章:メッキが剥がれる時】
俺はダンジョンの入り口に戻り、近くのカフェに入った。 コーヒーを注文し、スマホで『アーク・ブレイブ』の配信を開く。
画面の中では、ハヤトたちがボス部屋への扉を開けようとしていた。
『さあ、いよいよ黒竜との対決だ! 俺の聖剣で一刀両断にしてやるぜ!』
ハヤトがカッコつけて剣を抜こうとする。 だが。
ガキンッ!
「……あれ?」
剣が抜けない。 いや、重すぎて持ち上がらないのだ。 今まで「筋力100倍バフ」のおかげで羽根のように扱えていた聖剣が、今の彼にとっては「ただの重い鉄の塊」になっている。
『おいハヤト、何遊んでんだよw』 『緊張してんのか?』
コメント欄が草を生やす。 ハヤトは顔を真っ赤にして、両手で必死に剣を引きずり出した。
「ち、違う! ちょっと肩が凝ってて……! いくぞ!」
彼らがボス部屋に入った瞬間。 黒竜ではなく、まずは取り巻きの雑魚モンスター――『ハイ・ゴブリン』の群れが現れた。 普段の彼らなら、鼻歌交じりに瞬殺できる相手だ。
「ふん、雑魚が。消えろ!」
魔法使いが杖を振るう。
「『極大爆炎』!!」
……しかし。 杖の先から出たのは、ライターの火のような、ポッという小さな火花だけだった。
「え?」
魔法使いが凍りつく。 ゴブリンたちは「なんだこいつ?」という顔をして、ニヤニヤしながら棍棒を構えた。
「な、なんで!? 私の魔力が……底をついてる!?」
当然だ。 彼女の膨大な魔力も、詠唱短縮も、全て俺の【恩恵】だったのだから。
「おい! 何やってんだ! 魔法がダメなら俺が斬る!」
ハヤトが聖剣を振り回しながら突っ込む。 ゴブリンが棍棒を適当に振るう。
バキィッ!!!!
「ぐべぇっ!?」
ゴブリンの棍棒が、聖剣ごとハヤトを殴り飛ばした。 ハヤトはボールのように吹き飛び、壁に激突して血を吐いた。
『は?』 『え、弱っ』 『ゴブリン相手に吹き飛んだぞ?』 『演出?』
コメント欄の空気が変わる。 聖女が慌てて回復魔法をかけようとするが、光が弱すぎて傷が塞がらない。 重戦士は鎧の重さに耐えきれず、その場でへたり込んでいる。
「い、痛い……! なんだこれ、骨が折れた……!?」
ハヤトが涙目で叫ぶ。 今まで「物理耐性100倍」で守られていた体が、ただの生身に戻ったのだ。ゴブリンの一撃でも致命傷になる。
「グギャギャギャ!!」
ゴブリンたちが、獲物が「弱い」と理解し、一斉に襲いかかってきた。 それは戦闘ではない。 一方的な、虐殺の始まりだった。
『いやぁぁぁ! 来ないでぇぇぇ!』 『俺は勇者だぞ! なんで剣が上がらねぇんだよぉぉ!』
無様に逃げ惑うSランクパーティ。 その無修正の醜態が、120万人の視聴者に生配信されていく。
『これマジ?』 『放送事故だろ』 『弱すぎワロタ』 『……待って、もしかしてさっき追放された奴がヤバかったんじゃね?』 『あいつがいなくなった途端これかよ』
視聴者たちが気づき始める。 俺はカフェでコーヒーを啜りながら、スマホの画面をタップした。
「(……さて。そろそろ『真打ち』が登場してやろうか)」
俺はニヤリと笑った。 回収したステータスのおかげで、今の俺は文字通り「神」に等しい力を得ている。 助けに行く? いや。 「格の違い」を見せつけに行くのだ。
【第三章:真の最強は誰か】
ダンジョン最深部手前の広場は、地獄と化していた。
「いやぁぁぁ! 痛い! 痛いぃぃ!」 「なんで! なんで魔法が出ないのよぉぉ!」
聖女と魔術師が、ハイ・ゴブリンに追い回されて悲鳴を上げている。 重戦士は既に気絶し、勇者ハヤトは壁際で震えていた。
『……う、嘘だろ……』 『夢なら覚めてくれ』
ハヤトが涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、ドローンカメラに縋り付く。 だが、視聴者の反応は冷酷だった。
『見苦しいぞハヤト』 『これが実力だったのか』 『今まで俺たちは何を応援してたんだ?』 『チャンネル登録解除したわ』
数字が減っていく。 120万人いた同接が、100万、80万……と急激に減り、代わりに低評価のバーが伸びていく。
その時。 追い打ちをかけるように、奥の扉が開いた。 ズズズズ……! 現れたのは、全身が漆黒の鱗に覆われた巨大な竜――**『深層の主・ブラックドラゴン』**だ。
「グルルルル……!!」
竜の咆哮だけで、ハヤトたちは吹き飛ばされた。 終わりだ。 ゴブリンにすら勝てない今の彼らに、ドラゴンと戦う術などない。
「死ぬ……! 死にたくないぃぃ!」
ドラゴンが大きく口を開ける。 全てを焼き尽くすブレスの構え。
――その瞬間。
ヒュンッ。
風を切る音がして、ドラゴンの横っ面に「何か」が直撃した。 それは、ただの**「石ころ」**だった。
ドゴォォォォォンッ!!!!
だが、威力は砲弾以上。 ドラゴンの巨体が真横に吹っ飛び、壁にめり込んだ。
「……は?」
ハヤトが呆然と入口を見る。 そこには、コーヒーカップを持ったままの、地味な青年が立っていた。
「カナタ……!?」
俺だ。 俺は悠然と歩み寄った。 周囲のゴブリンたちが襲いかかってくるが、俺は歩きながら指先で弾くだけ。 パチン。パチン。
デコピンの風圧だけで、ゴブリンたちが衝撃波に打たれたように吹き飛び、霧散していく。
「な、なんだその強さは……!?」
ハヤトが叫ぶ。 俺はスマホの画面を見せた。
【カナタのステータス】 【筋力:99999(+利子)】 【魔力:99999(+利子)】 【敏捷:99999(+利子)】
「言っただろ? 『契約解除』したってな。 お前らに貸していた力に、今まで滞納していた分の『利子』を上乗せして、全部俺の元に回収したんだよ」
今の俺は、4人分のSランクステータスを、さらに数倍にした化け物だ。 このダンジョンのボス如き、指先一つで十分。
「カ、カナタ! 頼む、助けてくれ!」
ハヤトが俺の足にすがりついた。
「俺が悪かった! 謝る! だから力を返してくれ! パーティに戻してやるから!」 「そうよ! 私たち仲間でしょ!?」
俺は冷ややかな目で見下ろし、足を振り払った。
「断る。俺はもう、ソロの方が気楽なんでな」
俺は壁から這い出てきたドラゴンに向き直った。 ドラゴンが激怒し、最大火力のブレスを放つ。
ゴオオオオオオッ!!
「……ぬるい」
俺は息を吹きかけた。 フゥーッ。 ただの吐息。だが、圧倒的なステータス差が生んだ突風が、ドラゴンのブレスを押し返し、そのまま本体へと直撃した。
「ギャアアアアッ!?」
自らの炎に焼かれるドラゴン。 俺は瞬時に距離を詰め、ドラゴンの額に中指を当てた。
「終わりだ。――デコピン」
ズドンッ!!!!
空気が破裂した。 ドラゴンの頭部が消滅し、巨大な体が光の粒子となって崩れ落ちた。
静寂が訪れる。 カメラが、その光景をバッチリと捉えていた。
『!!!!????』 『強すぎワロタwww』 『デコピンでドラゴン倒したぞ!?』 『本物はこっちだったか』 『カナタさん、一生ついていきます!』
コメント欄の流れが反転する。 称賛、驚愕、そして新たな英雄の誕生を祝う言葉たち。
【エピローグ:ソロ配信はじめました】
その後。 『アーク・ブレイブ』は大炎上し、引退に追い込まれた。 詐欺まがいの実力偽装と、仲間へのパワハラが明るみに出たため、彼らは冒険者資格を剥奪され、多額の違約金を背負って社会的に抹殺された。
一方、俺は。
『うぃーす。カナタでーす。今日は深層で焼肉配信やっていくよ』
俺は新しいチャンネルを立ち上げていた。 登録者数は、開設3日で100万人突破。 今や世界一の探索者配信者だ。
画面の中、俺はドラゴンの肉を焼きながら、リスナーのコメントを拾う。
『今日もワンパン見せて!』 『カナタ君、後ろに魔王がいるよ!』 『あ、魔王? じゃあついでに倒してくるわ』
俺は箸を置き、裏で湧いた魔王をデコピンで沈めてから、また肉を食う。
「ん、美味い。……やっぱ、一人で食う飯は最高だな」
寄生虫はいなくなった。 俺の力は、俺のために使う。 悠々自適な最強ソロライフは、まだ始まったばかりだ。
(完)
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