何もしない院長パート92「入退院支援ソフトTransMedicaの弱点」
■ 症例から見えた“システムの限界”
ある日の会議。テーマは「TransMedica導入後の病棟運営会議」。
参加したのは、各病棟の看護師長、医事課のブレイン湯先、MSW野守、リハ科長 好岡、そして事務局長中西。議長は能生原、横には包括ケア病棟の森川師長が控えている。
森川師長が最初に口火を切った。
「先週、DPCⅡ期が切れるからってソフトに従い機械的に“退院候補”にリストされた患者さんがおられました。まだ歩行も安定していなくて、家のトイレまで行くのも不安定。ご本人も家族も『もう少しリハをしてからに』と言われていましたが、システム上は“退院推奨”。あれはさすがに現場を無視してます」
好岡リハ科長も頷く。
「同じケース、リハビリの効果が出てきている最中だったんです。もう一週間あれば自宅復帰がぐっと現実的になる。ところが数字上は“今すぐ退院”の方が病院の収入にプラスになる……。人を数字に合わせるのは、本末転倒ですよ」
■ 看護と家族の視点
MSW野守も発言する。
「患者さんの奥様が“この状態で家に連れて帰ったら共倒れになる”と泣いておられました。ソフトには家族の声は入ってませんからね。最終判断はやっぱり現場でやらないと」
議長の能生原が机を叩いた。
「だからこそ、この会議があるんです。システムの候補はあくまで“参考”。私たちが“人の顔を見て”調整する。それが南方流です!」
会議室に力強い拍手が広がった。
■ 野上院長のひと言
一部始終を静かに聞いていた野上院長が、最後に口を開いた。
「……まあ、機械はベッドの数は数えられるけど、人の気持ちは数えられへんわな。
“退院日”やのうて、“ええ日”を決められるんは、やっぱり人や」
一同はしばし沈黙したあと、笑顔になった。
その日の議事録の末尾には、湯先がこっそりこう書き添えた。
《本日の野上語録》
“退院日やのうて、ええ日を決めるんは人や”




