何もしない院長パート88「南方総合病院に労基が入った。看護部は?」
労基の立ち入り調査。
医局に続いて、矛先は看護部に向けられた。
数年前までは、残業をつけないことが「チームに迷惑をかけない美徳」とされていた。
急変対応の記録も「ちょっとだから」と申告されず、書類整理に夜遅く残っても「明日の準備だから」と片づけられてきた。
——だが今回、看護部には不思議な落ち着きが漂っていた。
■吉永珠緒の改革
吉永珠緒・看護部長。
“看護界のロジスティシャン”と呼ばれる彼女は、数年前から看護師の残業文化にメスを入れてきた。
「超過勤務を申告するのは、弱音じゃない。
働き方を見直すための“データ”や」
そう説き続け、タイムカードと申告内容を突合し、整合性が取れていないときは自ら呼び出して話を聞いた。
「残業ゼロがえらいんじゃない。定時で帰れる仕組みを作るのが、管理者の仕事」
その結果、看護部ではサービス残業は激減し、シフト見直しや補助スタッフの活用も定着していた。
■労基調査の場で
監督官が帳簿を確認し、タイムカードとの突合をした。
医師部門では冷や汗ものだったが、看護部のデータはほぼ完全に一致していた。
「これは……きちんと改革されていますね」
監督官がそう言うと、吉永部長は淡々と答えた。
「患者さんを守るには、まずスタッフが守られなきゃいけませんから」
■野上院長のひとこと
調査が終わり、中西がホッと胸をなでおろすと、野上院長はポツリ。
「……やっぱり吉永さん、院長のほうがええんちゃうか」
ナースたちが一斉に笑い声を上げた。
労基調査の緊張も、南方総合病院らしい“余白”で溶けていった。




