何もしない院長パート87「南方総合病院に労基が入る!?」
ある日、南方総合病院に「労基が入るらしい」という噂が走った。
事務局長・中西は、デスクで頭を抱えた。
「……やばい。これ、バレるで」
■カードに残る“真実”
南方病院では出退勤はすでにカード式になっている。
出勤7時台、退勤20時台——熊田、河添、栗林ら古参医師のカード記録は、どう見ても月100時間超の残業を示していた。
ところが、彼らの勤務表はどれも「超過勤務ゼロ」。
つまり、サービス残業扱いで、残業手当も出ていない。
「院長! これ完全にアウトです!
数字を見りゃ、過労死ラインを超えてるのは明らか。
労基に突っ込まれたら、病院だけじゃなく、長である院長にもペナルティーですよ!」
中西の声は裏返った。
■古参の言い分
「いや、ワシらは好きでやっとるだけや」
熊田は飄々とした顔で言う。
「研究も教育も、仕事と別に考えてへん。だから残業やと思わんのや」
河添も真顔で続ける。
栗林にいたっては、笑いながらこう言った。
「病院が家みたいなもんや。帰宅時間? そんなん、あってないようなもんやろ」
滅私奉公。古参の矜持ではあるが、労基には通用しない。
■監督官の一言と院長の“脱力”
査察当日。監督官はカードと申請の矛盾をきっちり突いた。
「記録では明らかに残業しているのに、申請ゼロ……これはブラックの典型ですね」
中西は冷や汗をかきながら弁明したが、医師たちは平然としたものだった。
「私らは好きでやってるんです」
「患者を見届けるのは当然やろ」
一瞬、監督官の表情が揺れた。
「……制度的には問題ですが、先生方の責任感には頭が下がります」
■野上院長のひと言
すべて終わったあと、院長室に戻った一同。
中西がぐったりと報告すると、野上は羊羹をかじりながらこう言った。
「……まあ、ええんちゃう。
カードには嘘つけんけど、心には残業代つけへんのが、ウチの流儀やろ」
中西は「いや、それじゃ困るんです!」と机を叩いたが、結局病院には軽い指導のみ。
また一つ、“野上語録”が院内を駆け巡ったのだった。




