何もしない院長パート85「丸川先生を支える人」
南方総合病院の消化器内科・丸川部長。
熱く、真面目で、責任感の塊——だがその生き方は今の働き方改革の風潮には、正直そぐわない。
内視鏡で大きな処置をすれば必ず泊まり込み、重症患者がいれば数日家に帰らないことも珍しくない。
「自分の患者は最後まで自分で見る」
それが丸川の信条だからだ。
——その分、家庭へのしわ寄せは当然、妻にのしかかる。
■奥さんのぼやき
「アンタねえ、子ども3人抱えてこっちはてんてこ舞いなのよ。祭りだの消防団だのまで顔出すヒマがあったら、せめて洗濯物くらい干してよ」
そう言いつつも、奥さんはどこか笑っていた。
“医師の妻”として腹をくくっているのだ。
夫の医療への矜持を理解しているからこそ、支える覚悟がある。
■長男のひと言
そんな家庭の姿を見て育った中学1年の長男。
父のことを友達にどう説明するかと聞かれると、こう言った。
「うちの親父? 祭りでは太鼓叩いて、病院じゃ寝ずに人助けして……。
でも家じゃ、インスタントラーメンも作れんのや。
——けど、オレは尊敬してるよ」
母は苦笑しながら「ほんと、その通り」と相槌を打つ。
■丸川部と野上院長
丸川部は、そんな部長を慕って集まる熱い若手たちの巣窟だ。
「部長のようになりたい」と口を揃えるが、奥さんのぼやきを知る者はほとんどいない。
ある日、その話を耳にした野上院長は、羊羹をかじりながらひと言。
「……まあ、ええんちゃう。病院のためにも、家族のためにも、丸川は走りすぎるくらいがちょうどええんや」
奥さんはあとでこうつぶやいた。
「院長先生の“ええんちゃう”って、うちの主人を一番わかってる言葉かもしれないわね」




