何もしない院長パート82(看護師特定行為研修開講式 市長祝辞)
壇上に呼ばれたのは、中田市長。
落ち着いた口調で、しかし言葉には確かな熱を込めてマイクに向かった。
■中田市長あいさつ
「本日は、特定行為研修の開講式という大切な日にお招きいただき、誠にありがとうございます。
さて、私たち南都地域の医療は、今まさに転換点を迎えております。
急性期医療を担う南方総合病院、そして回復期から慢性期までを担う南都中央メディカルセンター。
この二つの病院が、互いに機能を分け合い、協力し合うことで、はじめて地域全体の医療が守られる。これはもう、避けて通れない道であります。
しかし、現実にはまだまだ議会や地域の中で意見がまとまりきらず、調整が難航しているのも事実です。
市民の皆様、そして現場の皆様には、大変ご迷惑とご不安をおかけしていることを、市長として心からお詫び申し上げます。」
会場はしんと静まり返った。
市長は少し息を吸い込み、声を強めた。
「ただ、その中でも希望があります。
それが、特定看護師の存在です。
医師が不在でも、看護師が確かな判断力をもって患者さんに対応できる。
病棟でも、在宅でも、その力は地域医療の安全網となるのです。
本日ここに集まった皆さんが学び、力を蓄えてくださることは、この街の未来に直結する。
私たち行政も全力で支えます。どうか胸を張って、研修に取り組んでください。」
力強い言葉とともに、大きな拍手が湧き起こった。
■会場の空気
市長が「私たち行政も全力で支えます」と力強く言葉を締めくくった瞬間、会場の看護師たちの表情がふっと変わった。
日々の業務に追われる中で、「働き方改革」「病院再編」といった大きな議論は、正直どこか遠い話に聞こえていた人も少なくなかった。だが、市長が自ら議会の足並みの乱れを認め、謝罪し、さらに「特定看護師こそ地域医療の未来だ」と言い切ったことで、彼女たちの胸にじんわりと火が灯った。
「行政のトップがここまで言うなら、本気なのかもしれない」
「私たちがやる意味があるんだな」
最前列の杉永さんは小さくうなずき、隣の林さんは目を潤ませていた。
会場の隅では、看護部長の吉永が満足げに腕を組み、
「ほら、言ったとおりでしょ。現場の力が時代を変えるのよ」
と心の中でつぶやいていた。
■野上院長のひとこと
感動的な余韻が残る中、野上院長がマイクを握り直した。
「えー……市長のお話を聞いて、私も胸が熱くなりました。
ただ……正直なところ、あまりにも立派すぎて……“何もしない院長”の私の立場が危ういなと」
会場にどっと笑いが広がる。
シリアスな空気がほぐれ、拍手とともに式典は和やかに閉会した。




