何もしない院長パート81 (看護師特定行為研修開講式 看護師長挨拶) 「看護部長は止まらない Ⅱ」
看護師特定行為研修の開講式。
野上院長の後に登壇したのは、看護部長・吉永珠緒だった。
吉永は一歩前に出ると、落ち着いた声で語り始めた。
「看護師が特定行為を担うということは、病院全体にとって大きな転換点です。
これまで“医師にしかできない”とされてきた処置の一部を、責任をもって担えるようになる。
それは、現場の効率化だけでなく、患者さんの安心感にも直結します。
そして同時に、皆さん一人ひとりのキャリア形成にもつながります。」
数字や制度のこともさりげなく触れる。
「当院の入院患者の平均在院日数は昨年度10.9日でした。急性期を支えるためには、早期の治療方針決定が不可欠です。
特定看護師が診療補助を担えば、医師が不在の時間帯でも安全な判断が可能となり、全体の流れがよりスムーズになります。
これは“病棟の兵站(ロジスティクス)”と同じです。必要なところに、必要な能力が配置されることが重要です。」
現実的でロジカルな説明に、会場の職員たちは「さすが吉永部長」とうなずきながら聞き入っていた。
最後は温かい表情に戻り、受講する杉永・林の二人に向かって言葉を締めくくる。
「困ったときは、必ず相談してください。
研修は孤独な戦いではありません。私たち看護部も全力で支えます。
どうか安心して、一歩を踏み出してください。」
拍手が広がる。
その様子を横で見ていた野上院長が、ぼそりと一言。
「……やっぱり吉永さん、院長やったほうがいいんじゃない?」
その場は一瞬静まり、そして笑いに包まれた。




