何もしない院長パート79 「夜間外来専従導入をめぐる議論 ― 人員不足とのジレンマ」
本作で描いた「医療従事者労働環境改善対策委員会」や「当直・夜間外来のシステム」に関するやり取りは、物語を楽しんでいただくためのフィクションであり、必ずしも現実の病院制度や運用を正確に反映したものではありません。
特にパート77〜79では、医師の超過勤務や自己研鑽の境界線、当直業務と夜間外来の切り分け、夜間外来専従導入の議論などを簡潔に描いていますが、あくまで「病院のことをよく知らない方にもイメージしやすいように」簡略化して脚色しています。
現実の医療現場では、病院の規模・地域性・診療科の状況などによって運用は大きく異なります。本作を通じて「医師の働き方改革」や「医療従事者の負担」に関心を持っていただければ幸いですが、制度や実際の医療現場の在り方とは切り離してお読みいただければと思います。 著者 しゅんたろう
■提案の火種
医療従事者労働環境改善対策委員会の場で、副院長・熊田が切り出した。
「夜間外来と当直は明確に切り分ける。
ならば“夜間外来専従医”を置くのが本筋だろう。」
すると場が一瞬ざわつく。
「専従?」「そんな人どこにいるんだ?」
■若手の賛成
若手医師は歓迎ムード。
「夜間外来が専従になれば、僕らは病棟に集中できます!
今のように、救急と病棟の往復で消耗することがなくなる。」
研修医も口を揃える。
「教育の場としての外来は必要ですが、今は“教育”というより“過労”です。」
■ベテランの反論
一方、ベテラン医師たちは渋い顔。
「専従なんて無理だ。
今でさえ当直医を確保するのに四苦八苦しているのに。
外来専従を置いたら、逆に病棟が手薄になる。」
さらに一人が苦笑して。
「結局、若い医者の働き方改革をやればやるほど、残りはオレたちに跳ね返ってくるんだ。」
■コメディカルの現実論
看護師長・中山が冷静に指摘。
「でも患者さんから見れば“夜間外来に先生が常駐していない”のは不安材料です。
病棟も外来も中途半端にされるより、外来をしっかり診る先生がいた方が安心です。」
衛生委員会の向山も頷く。
「人が足りないなら、夜間は診療所方式にして非常勤医をシフトで呼ぶとか。
市民には“夜も診てもらえる”ことが大事なんですよ。」
■行き詰まり
会議は堂々巡りに。
若手 →「専従導入で働き方改革!」
ベテラン →「人が足りない、現実的でない!」
コメディカル →「患者第一で考えるべき!」
結論はなかなか出なかった。
■野上の一言
その時、野上院長がゆるりと口を開く。
「“専従”って言葉にみんな引っ張られすぎじゃないか。
夜間外来は“交番”、当直は“交代勤務”。
警察だって、夜の街を見回る人と、署で待つ人がいるだろう?
どっちも必要で、でも一人で両方はできない。
なら“持ち回り”でやり繰りするしかないんじゃないか。」
会議室に妙な沈黙。
そして誰かがつぶやいた。
「……結局、現実は“交番方式”か。」
■後日談
結論は「夜間外来専従を完全には導入せず、非常勤や地域医師との協力で“交番方式”を模索する」となった。
若手は少し救われ、ベテランは少し疲れ、看護師たちは少し安心。
——またしても、野上院長は“何もしない”ようでいて、場を和らげ、方向性だけは不思議と定まるのであった。
「人員不足か? それは畑に水をやるのと同じ。一本の苗に水を注げば他が枯れる。だが、不思議と雑草だけは元気に育つ」野上太郎
これはフィクションです。実在の名称や団体とは一切関連はございません。




