何もしない院長パート76「パワハラ医師、ぎゃふんの回」
■院長室にて
安全管理室長代理・中山看護師長、衛生委員会幹事・向山さんが揃って野上院長に直訴したあと、副院長の熊田(外科医)も呼ばれた。
「現場のストレスは限界です。患者さんからの投書も止まりません」
中山が毅然と告げる。
熊田は腕を組み、静かに言った。
「外科医としての腕は確かだ。ただ、人格は……手術器具ほどに研がれてない」
野上は例の調子で言った。
「まあ、残り湯だな。冷めきる前に使い道を工夫しろ」
中山と向山は、その“野上語録”からヒントを得た。
■中山看護師長の策:「温度管理」=チームシフトの工夫
中山は、パワハラ医師と新人看護師をなるべく同じシフトに入れないように配置を工夫した。
さらに「手術サポートの声かけマニュアル」を導入し、標準化した手順で医師に話しかけるよう徹底。
ある日、例の医師が怒鳴りかけた瞬間、若手ナースが冷静にマニュアル通りの台詞で返答した。
「先生、その件は術前チェックリストの項目3に沿って確認しております」
医師は一瞬たじろぎ、言葉を飲んだ。
——怒鳴り散らせば散らすほど「マニュアルに反する行為」と記録に残る仕組みに変わっていたのだ。
中山は心の中でガッツポーズをした。
■向山さんの策:「冷める前に晒す」=公開フィードバック
向山は衛生委員会の定例会で、投書内容を匿名化したケーススタディとして発表することにした。
「患者・職員から寄せられた“接遇に関する声”」として読み上げると、誰が聞いても“あの医師”のことだと分かる。
会場はざわついたが、向山は平然と続けた。
「これは、我々全員の課題です。どう改善していけるか意見を」
議論の場で名前は出さずとも、同僚たちの視線が一人の医師に集まる。
彼は居心地悪そうにうつむき、最後には
「……気をつける」
とぼそり。
——公開の場で“自覚”させる仕組みによって、彼を黙らせたのだった。
副院長・熊田のフォロー
熊田は後日、その医師にだけ呼びかけた。
「俺も外科医だから分かる。苛立つこともあるだろう。だが、ナースを怒鳴っても手術成績は上がらん」
そう言って机の上に安全管理室の投書のコピーを置いた。
「これは君に宛てられた赤札だ。次に来たら、院長に正式報告する」
医師はついに観念した。
そして野上の一言
報告を受けた野上院長は、また椅子にふんぞり返って言った。
「なるほどな。熱いうちにヤケドしない工夫を、中山がやった。
冷める前に湯気を見せたのが向山。
熊田は、残り湯が腐らんように蓋をしたわけだ」
静まり返る室内で、院長はさらに続ける。
「病院なんて、風呂桶と同じ。
誰が入っても同じ湯だ。
ただし掃除を怠れば、カビが生える」
——その場にいた全員が思った。
(また“野上語録”が増えた……)




