何もしない院長パート74 「有明厚生部長と嶌田さんが意外な共通点で意気投合」
■県庁の廊下で
県庁の廊下。
会議室から休憩のため控室へ向かう有明厚生部長は、いつもより床がやけに輝いていることに気づいた。
「……おや、今日は随分きれいね」
ふと視線をやると、モップを持った見慣れない女性がいた。
頭にはタオル、背筋を伸ばして堂々と磨いており、まさに堂に入っている。
「……あなたは?」
思わず有明が声をかけると、彼女は顔を上げ、ニカッと笑った。
「嶌田。南方総合病院の掃除担当のリーダーです」
「なぜ県庁に?」
「野上院長のことを、ちょっと応援にな。現場の声を届けるついでと思うて。
でもなんや、落ち着かんのでそこにあったモップ借りてせっかくやから、磨いといたろ思うて.......
でも、なんや、やっと落ち着いてきたわ!」
有明は一瞬、言葉を失った。
■共通点の発見
ふと、有明の視線が嶌田さんの首元にぶら下がるペンダントトップ、“木彫りの熊”に止まった。
「それ……北海道の?」
「そうさね。旭川の実家からもってきたわてのお気にいりアイテムや」
「……! 私も北海道、小樽出身なのよ」
一瞬、目が合った二人。
次の瞬間にはもう笑っていた。
■“道産子あるある”で大盛り上がり
「冬は玄関で手袋乾かすと、次の日カチカチでしょ」
「分かる分かるわあ! あれ、石みたいになんのよね」
「ジンギスカンはやっぱり七輪だべ」
「なに言ってんの、うちは普通にホットプレート派だわ」
「本州に出てきたとき、最初に驚いたのは?」
「コンビニの“おでん”だね。あんなに種類あるなんて」
「わたしは“豪雪”! 北海道の雪で慣れてると思ったけどあの量はね。びっくりしたわ。」
会議室では敵、味方だったはずの二人が、今や“道産子同郷会”さながらに談笑していた。
■院長のひと言
そこへ、いつの間にか院長・野上が顔を出す。
「なんやお二人さん、さっきまで敵同士やったのに、今じゃ同窓会やな」
嶌田さんは肩をすくめる。
「院長、これが“郷土愛の力”ってやつよ」
有明も笑みを浮かべる。
「ええ、雪解けは案外こういうところから始まるのかもしれませんね」
数日後、病院売店に新しい張り紙が出た。
「改革も雪解けも、待てば来る——院長語録」
このフレーズは、有明と嶌田さんの道産子トークから生まれたものだと、誰も知らなかった。




