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何にもしない病院長  作者: しゅんたろう
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何もしない院長パート72 機能分化決戦、市議会


■市議会の修羅場


南都市議会の本会議場。

西地区選出の議員たちは顔を紅潮させ、机を叩きながら声を張り上げていた。


「中央医療センターを介護医療院に? 西地区の住民を切り捨てる気か!」


「急性期は南方総合病院だけ? 東地区ばかり優遇されている!」


市議会はまるで大相撲の土俵際、両者譲らずの攻防戦。

傍聴席では病院関係者や市民が固唾を飲んで見守っていた。


■野上は沈黙、代わりに立つのは——


本来なら、当事者である院長・野上が発言する場面。

しかし、野上は机に肘をつき、例のごとく「何もしない」。


その代わりに立ち上がったのは、有明さつき県厚生部長であった。


以前、野上に「この県には僻地はない」と痛烈に言い放ったあの人である。


「議員の皆さん。冷静に考えていただきたい」

声は落ち着いていたが、議場に響き渡る迫力があった。


■厚生部長の正論


「このまま2つの自治体病院を抱え続ければ、借金は雪だるま式に膨らみます。

物価高、人件費高騰のあおりを受け、収支はすでに限界。

“単独での自浄努力”は、もう不可能なのです」


議場にざわめきが広がる。

有明は間髪を入れずに続けた。


「南都市にとって、必要なのは“両病院を潰さないこと”であり、

そのための機能分化です。

このままでは近い将来、南方総合も中央医療センターも、両方とも倒れる。

そうなれば、市民は県立中央病院に流れざるを得なくなります。

——それで本当にいいのですか?」


一瞬、議場の空気が止まった。


■野上の一言


その沈黙の隙をついて、野上がようやく口を開いた。


「ま、病院が2つとも潰れたら……掃除のおばちゃんも路頭に迷うしな」


議員も傍聴人も、一斉に笑いが起きた。

緊張がふっと緩む。


■結論


議論は白熱したが、有明の正論と野上の一言で潮目が変わった。

西地区の議員も「市民のため」という大義を前に、徐々に矛を収めざるを得なくなる。


こうして、南都市の二つの病院は、

南方総合=急性期

南方中央=ケアミックス

という新たな役割を担う方向で、動き出すことになった。



議会終了後、記者に囲まれた有明は一言だけ答えた。


「結局のところ——野上院長は“何もしない”のに、ことがまとまる。不思議な人ですね」


売店のおばちゃんは後日、病院の掲示板にこう貼り出した。


「病院は壊すより“分ける”ほうが安上がり」——院長語録


……またバズった。

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