何もしない院長パート69 制度と現場の和解
■ 県庁会議室にて
会議はまたも紛糾していた。
有明さつき厚生部長が書類を机に叩きつけるように言う。
「制度を守らなければ、全県の医療計画そのものが瓦解します!」
対して野上は椅子にふんぞり返り、例の煙草をくわえながら。
「机の上の計画で病人が治るんなら、わしの病院なんぞ要らんわな」
一触即発の空気。
■ 野上応援団の登場
そこに割って入ったのが、地域包括ケア局の大原。
「部長。制度の正しさは否定しません。ですが、南方総合の現場で何が起きているか、まず聞いてください」
さらに、かつて南方総合の総務課長だった松石が資料を掲げる。
「この病院は制度を逆手に取りながらも、赤字幅を縮め、人員流出を止めつつあります。野上の“何もしない”采配が、現場の安定をもたらしているのです」
そして最後に、政策参与の東修二が穏やかに口を開く。
「私もかつて院長を務めましたが、彼のやり方は一見無責任に見えて、実は病院に『人を生かす余白』を作っているのです」
■ 有明さつきの沈黙
有明は腕を組み、しばらく沈黙した。
「……つまり、制度に従わせるより、制度に遊びを持たせることが、結果的に県全体の利益になる、と」
野上はニヤリと笑う。
「制度は枠。病院は人。どっちもなきゃ、医療は立たんわ」
■ 和解の兆し
しばしの沈黙の後、有明は苦笑いした。
「院長、あなたの語録はもう県庁中に回覧されてます。……正直、癪ですが、確かに響くものがありますね」
大原・松石・東の三人は顔を見合わせ、安堵の息をついた。
■ 会議後の廊下
会議室を出た野上に、大原が声をかける。
「院長、結局何もしてないようで、全部してますよね」
野上は煙草を揉み消しながら一言。
「人が動いたら、院長は動かんでもええ。それが一番ええんや」




