何もしない院長パート67「嶌田さんは事情通」
■掃除婦のリーダー格
掃除婦の嶌田さんは、見た目はどこにでもいる“おばちゃん”だが、実はこの病院の裏の事情に一番通じている存在だった。
古参ゆえに自然とリーダー格となり、下は20歳の若者から、上は70代のシルバー人材まで、多彩な掃除スタッフを束ねている。
「ほら、そこ!モップのかけ残しあるよ! 患者さんの転倒に繋がるんだから!」
「はいっ!」
その声は、ちょっとした看護師長にも匹敵する迫力だ。
■浮かび上がる“情報網”
嶌田さんの強みは、掃除をしながら自然と情報が集まること。
「あの患者さん、夜中ずっと咳してたわよ。ナースステーションに言っといたほうがいいんじゃない?」
「3階のトイレ、配管から水漏れてるわ。放っておくと大事になるわよ」
「外来の待合室、エアコンの効きが悪いって患者さん文句言ってたわ」
その耳と目は、病院中を巡るセンサーのようだ。
■院長への報告
野上が院長室で書類を前に「はぁ…」とため息をついていると、ノックもそこそこに嶌田さんが顔を出す。
「院長先生、例の若い先生ね、看護師さんたちには評判いいけど、患者さんへの説明がちょっと早口だって」
「ふむ……」
「それと、食堂の冷蔵庫がもうガタきてるみたい。業者呼んだほうがいいわよ」
「ふむ……」
野上は内心、ニヤリとする。
(まるで病院に“くさ”を雇ってるみたいだな。しかも目が確かで、外れがない)
■陰の参謀
嶌田さんが帰ると、野上は机をトントンと指で叩いた。
「なるほどな……病院の空気を測るには、こういう人材が一番かもしれん」
院長が何もしなくても病院が回る理由。
それは“表の部長会”だけでなく、“裏の嶌田ネットワーク”があったからかもしれない。




