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何もしない院長パート64 「院内スイーツフェア」
ある日、売店のカウンターでお茶請けを物色していた野上。
谷口さんがぽつりとつぶやいた。
「院長、最近あんこ派とクリーム派で職員が分かれとるらしいですよ」
「ほう、それは重要な院内分断やな」
そこから話は膨らんだ。
「じゃあ、両方そろえた“スイーツフェア”でもやるか」
「ええやん。病棟の子らも、夜勤の合間にちょっとした楽しみがあったら元気出ますし」
企画会議と称して、売店裏の小さな机で“試食会”が始まる。
たいやき、フィナンシェ、バターサンド、どら焼き…気づけば机が甘味で埋まっていた。
「院長、これ仕事ですからね。決してただの間食会やないですから」
「もちろん。これは重要な嗜好調査や」
数日後、ポスターが院内に貼られた。
《院内スイーツフェア 〜甘いものは人をつなぐ〜》
ポスター下部には小さく、“ええんちゃう会議・特別後援”と記されている。
当日、売店前は長蛇の列。看護師も医師も事務職も、甘い香りに吸い寄せられていく。
谷口さんが誇らしげに言った。
「院長、これで院内の空気、またちょっと甘なりましたね」
「うん、糖質やけど、これはいい糖や」
――こうして南方総合病院の春の恒例行事に、“スイーツフェア”が仲間入りすることになった。




