何もしない院長パート54 Future Hands Project 2029 その2 高校2年生 白鳥玲奈の場合
この物語に登場する人物・団体はすべて架空です。ただし、思い当たる節があっても、口には出さないのが大人のマナーです。
翌日の振り返り。白鳥れいなは姿勢よく座り、少しだけ苦笑いを浮かべて話し出した。
「私が担当した田中さんは、糖尿病で足が壊疽しているのに、ポテトチップスがやめられないんです。
“食べないとストレスで死んじゃう”って…。医療者の立場なら“やめましょう”と言うべきなのに、私はそれを正しいと言い切れませんでした」
雄河が腕を組む。
「医学的には、間食は明らかにマイナス。でも、その人の人生の質をどう守るかは別の話やな」
荒又が補足する。
「これが“医療者の倫理的葛藤”や。治すことと、その人らしい生き方をどう両立させるか。正解は一つじゃない」
れいなは視線を落とし、言葉を続けた。
「…最終的に、“食べる喜び”と“足を守る”の間で、田中さんと一緒にルールを作りました。毎日の聞き取りは大変だったけど、田中さんは最後“話を聞いてくれてありがとう”って笑ってくれました」
土居さんがにっこり笑う。
「君はもう、研究だけやなくて、人の心を観察する目を持っとるわ」
その時、会議室のドアが少し開いて、野上院長が顔を出す。
「…それ、ええんちゃう?研究もええけど、患者さんの人生を実験台にはしたらあかんで」
れいなは吹き出し、場が柔らかくなった。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。




