何もしない院長パート47 「マツケン、回診に同行する(たった5分で回診完了!?)」
この物語に登場する人物・団体はすべて架空です。ただし、思い当たる節があっても、口には出さないのが大人のマナーです。
「えーと、じゃあこの患者さんは……」
「はい、マツケン先生、78歳男性、昨日の腹痛で入院、CTでは…」
「わかった。“それって実際、今なに困ってるん?”」
——開始1分で、話が蒸発した。
総合診療医・松島健次郎、通称マツケン。
月イチで南方総合病院を訪れ、スキルアップカンファを行ってきた彼が、
ついに現場回診に「遊びに来たるわ」と言って本当に来てしまった。
同行するのは小浦医師、そして熊田と河添の若手コンビ。
どうせ、じっくり3~4人くらいを回ると思っていた。
——が。
「このおばあちゃん、昨日より表情ええね。痛み止め効いとるけど、食事は?」
「少しなら食べられるように…」
「ほな“痛みのコントロール”と“食欲”が今の評価点やな。薬続けよ」
——2分。
「で、この人は?」
「月曜入院で、肺炎の…」
「部屋がちょっと寒いな。室温調整しよ。あと、お茶はポカリ混ぜとこか」
「は、はい!」
——4分。
「次どうする?」
「以上です」
「終わったやん」
若手二人は目を見開いた。
「え……終わり……?」
「これで!?」
「えっ……何が起きた……?」
マツケンは、胸ポケットからスティックシュガーを出してくるくる回しながら言った。
「“回診”って、“診る”んと違て、“感じる”ことなんよ。
この人、今“どこが不安”で、“誰がそれに気づいてるか”。
答えは、カルテじゃなくて、部屋の空気と、患者の顔に書いてある」
熊田が思わずつぶやいた。
「……でも、診察してませんよね?」
「したで」
マツケンはニヤリと笑った。
「目と耳と空気で、してたやろ?それが“全人的診療”ってやつやん」
——午後。院長室。
野上はエアコンの風に当たりながら、麦茶をすすっていた。
「もう終わったんか」
「終わったで。5分で濃密。診断力で納得。患者の顔は笑顔。若手の目はぽかんや」
「なんか詩みたいやな」
「そら、医療は“ポエジー”やもん。数値とアルゴリズムだけじゃ、救われへん」
野上は一息ついて、窓の外を見た。
今日も蝉が鳴いている。
「……ええ回診やったな」
「せやろ?」
「で、また来るんか」
「——ええんちゃう?」
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。




