何もしない院長パート43「丸川部、始動す。」
熱い〝漢”はどこにもいるものです。知っている誰かに似てる? と思っても多分sれは気のせいです。
「……で、部を作りたいんですよ、部を」
丸川悠司・消化器内科医長。
今年38、学生時代は硬式野球部主将、今も週末はランニング三昧のバリバリ健康志向男。
だが口調はなぜか、妙に控えめだった。
「ランニング、テニス、ゴルフ、あと院内対抗の野球大会とか。もちろん強制じゃなくて、参加自由の、ゆる〜い感じで」
向かいに座る野上院長は、椅子にもたれたまま、例によって表情がない。
が、右手のペンがちょっとだけ止まった。
「……部?」
「ええ。名前は“丸川部”でいこうかと。部長、僕で」
「ああ、ええんちゃう」
——出た。出たよ、出たよ、いつもの「ええんちゃう」。
「ただの脳筋の思いつき、と思われるかもですが」と丸川は続けた。
「コミュニケーション不足も感じてましたし、学生さんの実習中、職種を超えて一緒に汗流す機会があれば印象も変わる。実はリクルートにもつながるんですよ」
院長は鼻の下を指でさすった。
「なるほどな。ゴルフやランニングで“ここなら働いてみたいな”って思うかもしれんってことか」
「ええ。健康にもいいし、院内の風通しも……」
「……あー、“風通し”。ワシ、昔の就任あいさつで言うたなそれ。ええやん」
院長、急に立ち上がる。
ホワイトボードにでかでかと書いた。
【丸川部】
「たまには汗もええもんや」部(仮)
目的:運動、つながり、そして採用
職員会議ではちょっとしたざわめきが起きた。
「部活……って何年ぶり?」
「野球大会復活!? てか、ゴルフ接待コースやん(笑)」
「ていうか“丸川部”って名前でいいの?(笑)」
その日から、少しずつ“部員”が増えた。
ランニング組は仕事終わりに川沿いを走り、
院内サークル室には中古の卓球台が寄付された。
院内LINEには「#丸川部」なるタグが現れ、いつの間にか、学生や研修医との距離も縮まっていった。
一か月後。
学生アンケートに、こんな一文があった。
「医療も大事だけど、ここは“人”がいい。ああいう病院で働きたいです」
読んだ院長、ぽつりと呟く。
「ほんま、汗ってええんやな」
そう言いながら、隣で新しいゴルフクラブのカタログをめくっていたのは——
ほかでもない、院長・野上その人であった。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。




