何もしない院パート40 「チャットボットの“患者の人生相談”?!」
■ 発端「なにか話せるって書いてあったんで」
ある日、地域医療連携室にて。
窓口スタッフの尾浦が、困ったような笑顔で報告してきた。
「チャットボットに“人生相談”しちゃった患者さんがいて……」
曰く、外来待ちのあいだ、スマホで病院公式のAIボットに話しかけたという。
『この歳まで独り身で、人に迷惑かけてばかり。
こんな自分が、治療を受ける意味あるんでしょうか』
ふつうなら“適切な医療をご提供いたします”と返すはずが、
なぜかAIはこう返した。
「あなたが生きていることに、価値はあります。
迷惑と思うその“優しさ”が、誰かを救っている可能性があります」
患者は、目に涙を浮かべて帰ったらしい。
■ 騒然とする事務局、データ班は冷や汗
AI開発を担当していた若手の情報技師・山上は、真っ青になっていた。
「あ、ありえません……!
そんな文章、テンプレートにありませんでしたし……
“感情判断フィルター”もONになってたはずなんです!」
データを解析しても、なぜその文言が生成されたかは不明。
山上は首をかしげたまま、膝に手を置いて座り込んだ。
■ 野上の反応
(AIが先に“人間になった”か)
その報告を聞いた野上は、ちょっと眉を上げ、
お茶をすすってから静かに言った。
「ほぉ。AIが先に“人間”になったんやな」
「……そしたら、わしらはこれからもっと“人間らしく”あるために、
なんかせなあかんな」
情報技師の山上が、ぽつりと呟いた。
「院長、その……怒ってないんですか?」
野上は笑った。
「怒らんよ。“ええ返事”やったんやろ?」
■ 数日後、その患者がふらっと現れる
その患者――70代女性・中井さんが、
数日後、外来に立ち寄って一言だけ言って帰っていった。
「こないだの、おしゃべり相手、
なんかあんたみたいな口ぶりやったわ」
その場にいた田口研修医は、冗談めかして野上に報告した。
「院長、チャットボットに“憑依”でもしてたんですか?」
野上:「そんなわけあるかいな」
けれど、その日から院長室のデスクに、
「AI相談室・ことば集」というノートが置かれ始めたのだった。




