何もしない院長 パート39 「AI導入で業務効率化!? 院長が放った“まさかのひとこと”」
■ はじまりは、事務局会議室での報告から
「では――AI導入による業務効率化プロジェクトの進捗を報告します」
そう言ってスライドを映したのは、事務局の中堅職員・城方。
財政難の続く公立病院にとって、“省力化”と“品質維持”の両立は至上命題。
導入候補は──
病名自動補完AI(カルテ作成支援)
ベッドコントロール予測モデル
患者問い合わせ自動応答システム(チャットボット)
事務局長・中西も乗り気だった。
中西:「ようやく時代がウチに追いついた。あとは院長の決裁さえもらえれば――」
そこで、全員の目が、野上に向いた。
■ 野上、ついに口を開く
野上は、スライドを一瞥した後、お茶をすすりながらこう言った。
「……ええと思います。
でも、“それ”、どの職員が一番よろこびますの?」
会議室が一瞬、しん……とした。
■ 事務側の困惑、現場の声
後日、看護部会議でこの話を聞いた副看護部長・江前田はつぶやいた。
「確かに……“仕事を取られる”と感じる人もおれば、
“ありがとう”と涙ぐむ人もいるかもしれん……」
医師会でも、ベテラン医師がこぼした。
「AIがコードブルーも判断するって?
あいつら、患者の“まなざし”は読めんぞ」
■ 野上の再コメント:「わしは否定せんよ」
結局、AI導入は「段階的トライアル実施」となった。
その発表の場、またしても野上がぽつりと一言。
「否定はせんよ。
ただな、“任せる”と“無視する”はちゃうからな。
“全部AIでええやん”って言い出したら、そのときは止めるわ」
中西事務局長は、戻ってからひとこと。
「……あの人、ちゃんと“人を見とる”んやな」
山内はメモに走り書きした。
「“最も喜ぶ人から始める”。AI導入原則 第一条」
■ そしてある夜、院長室にて
システムテスト中のチャットボットが、なぜか野上の端末に誤作動して話しかけてきた。
BOT:「こんにちは、なんでもお答えします。院長、何かお困りですか?」
野上:「……いや、わしはええ。
職員の顔色、読めるようになったら教えてや」
と笑いながら、電源をそっと切った。




