何もしない院長 パート35 「共倒れなんか、させへん。」――再編協議・最終局面
“決断する人”がヒーローとされがちですが、本当に怖いのは、“誰も何も決めていない”病院です。
■ 開始:再編協議会、空気はすでに“対立構造”
県、自治体、2つの病院、医師会、議員、市民代表――
関係者が一堂に会する第6回 地域医療再編協議会。
場は張り詰めていた。
冒頭、県厚生部長・有明さつきが再び釘を刺す。
有明部長:「救急や急性期を担うなら、介護・回復期は手放す。
機能分化なくして連携はありえません」
他方、かつての“清原派”の流れをくむ某病院長が言う。
某病院長:「患者の取り合いが続く限り、地域に真の医療連携は根付きません」
「再編には、勇気と損を飲み込む覚悟が必要です」
そのとき、進行役が振った。
「では、南方総合病院 野上院長、今回の再編案についてご見解を」
■ 沈黙のあと、野上の“初めての長い発言”
参加者の多くが“どうせ何も言わないだろう”と、
空気が緩みかけたそのときだった。
野上が、眼鏡を外し、静かに口を開いた。
野上:「……うちは、共倒れなんか、させへんと思てます」
会場が静まる。
野上は、手元の一枚紙を掲げた。
野上:「うちの救急は、月に搬送150件。内科・外科ともに若手が踏ん張っとる。
でも、回復期に送らな続かん。送った先で、またちゃんと戻してくれる。それで成り立っとる」
「医療は、“切り分け”やなくて、“つながり”で生きとるんですわ」
そして、最後にこう続けた。
野上:「ワシは、何も取りたない。でも、渡せ言われたら、ただ渡すんやない。
そこにちゃんと、“人”がおるんや。そっちでちゃんと引き受ける気があるんか。
“再編”っちゅうのは、地図を描き直すんやのうて、人の手を握り直すことやろ?」
■ 厚生部長・有明さつきの心に火をつけた“言葉”
沈黙のあと、有明がつぶやいた。
有明:「……やっと“人”の話が出ましたね」
県庁でただ制度の調整をしてきた彼女にも、
医師だった若い頃、救急搬送のたびに感じていた現場の葛藤が蘇る。
有明:「……わかりました。じゃあ、こちらも“握る側”の責任を果たしましょう」
「再編案、見直します。“互いが支え合う”構造として」」
会場の空気が一変した。
■ 後日談「野上語録」がまたバズる
数日後、広報室がまとめた議事録に野上の発言が載った。
『人の手を握り直すのが、再編や』
『共倒れなんか、させへん』
地域紙に掲載された記事は、
#「野上語録」タグとともにSNSで再び拡散された。
これはフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。




