何もしない院長 パート34 「野上、火中の一石(いっせき)」 ――静かな病院長が、医療限界社会に投じた“たった一言”
■ 冒頭:県庁会議室、空気が凍る
県厚生部長・有明さつきは、南方市から来た一行を鋭い目で見据えていた。
机上に置かれた地域医療構想図。ペンでなぞられた赤線の中央には、「南方総合病院」の名があった。
有明部長:「……この地域に“僻地”なんて、もうありませんよ」
「勝ち残るとか、独り勝ちとかいう考え方は、共倒れを招くだけです」
「いざとなれば、住民は県立中央病院に流れれば済む話なんです」
野上院長は、無言。
代わりに自治体幹部が口を開こうとしたが、その前に有明は、最後通牒を突きつけた。
「次の再編協議会では、“南方総合病院の将来構想”を提示してください」
「救急・急性期を担う代償として、何を譲るのか——地域の医療資源の再配分をどう考えるのか」
その場にいた副院長・熊田、事務局長・中西も黙り込む。
……そして、野上がようやく口を開いた。
「……うちは、なにも奪ってへんと思てますけどな」
■ 静かな火種、野上の“戦略的沈黙”
野上は再編協議の場でも、多くを語らない。
しかし会議資料には、珍しく本人作成のメモが添えられていた。
そこには、こうあった。
『うちがやってること:
・24時間ER体制維持(夜間2名体制)
・周辺の回復期病院への転院調整数:月平均34件
・療養病床→在宅連携数:月平均36件
・医師派遣(週1):○○診療所、△△病院
・訪問看護連携件数:市内最多』
『……これを“独り勝ち”というのか?』
■ クライマックス:南都市長と県庁での一幕
野上は、ひとりでは県庁に行かなかった。
同行していたのは、南都市長。
市長:「市民が望んでるのは、“分断”じゃない。“安心”です」
「野上院長は何も言いませんが、彼が一番、地域の流れを見てると私は思う」
「むしろ問題は、制度の側のほうじゃありませんか?」
沈黙ののち、有明部長が低く言った。
「——制度に楯突くと?」
野上(ようやく口を開き):
「ちゃいます。制度が、現場に追いついてないだけやと思てます」
■ 野上、記者会見での“たった一言”
その翌週、地元紙の記者に囲まれ、野上が答えた。
記者:「今回の再編案、どう受け止めておられますか?」
野上:「ワシら、勝ちたいわけやない。
倒れんように、お互い寄りかかってるだけや。
せやから、誰かが動いたら、こける。動くときは、一緒にやろ」
この発言がSNSでバズる。
#「寄りかかり医療連携」
#「野上語録」
がトレンド入り。




